2021年7月21日にタイ国外務省と在タイ日本国大使館の共催で行われたオンラインセミナー「Envisioning the Future: 日タイ戦略的経済パートナーシップ」。mediator は本セミナーの企画から運営まで一気通貫の総合プロデュースと司会を務めました。
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非常に多くの方々に関心を持っていただき、当日は約1000名の方に参加いただきました。その中でも産官学の有識者により、日タイの経済連携について4つのテーマで意見交換が行われたパネルディスカッション「What now & What next: Thailand-Japan Strategic Economic Partnership in Challenging Time」の内容を抜粋して全4回の連載でお届けします。
今回は最後のテーマ「今後、日タイ両国の経済の持続発展のために取り組むべきこと」です。ここまで、日タイの過去・現在・未来に関する質問にパネリストが回答しましたが、最後のテーマ4では、日タイがいかに戦略的パートナーシップを築いていくかという視点での質問に入ります。
日本に期待することとは?|EEC事務局 シハサック特別顧問
EECのシハサック顧問に寄せられたのは「日本に期待することとは何か」というシンプルな問いかけです。
「これまで日タイは共同の目標を持って歩んできました。これまで同様、価値観を共有し、それぞれが自ら修正を施しながら進めば、未来に向けたドライブとなっていくはずです。ここで必要なのは、戦略的パートナーシップのビジョンです。私は、官民両方の立場からどのような貢献ができるのか、ステークホルダーはどういう人達なのかを想定する必要があると考えます。
このときEECを使っていただきたいと思います。というのも、二国間のパートナーシップというとまず思い浮かぶのがEECだからです。EECは両国のサンドボックスとして有効に活用できる場であり、イノベーションやBCG経済、グリーン成長戦略の要素はすべてが含まれます。隣国諸国のハブとして使えば、国間のみならずASEAN諸国全体にも発展と繁栄をもたらすでしょう。EECは日タイ両国の要になると思います。」
EECがこれからの日タイにとって非常に重要な機能を担っていることが実感できたシハサック氏の回答でした。
BCG経済政策について今後のタイ政府に期待すること|NEDO 萬木所長
次にNEDOの萬木所長が「BCG経済政策について今後のタイ政府の検討に何を期待するか」という質問に答えます。
「BCG経済を活性化するためには、あらゆる分野の企業が関わることができる将来像を描く必要があります。そのための環境整理が欠かせません。例えば、タイのBCG経済は4つの分野に分けられていますが、そのうちの1つの農業食品にフォーカスして考えてみましょう。アーリー社長からのお話にあったように、農作物を生産するにしても最適な土壌の状況や温度湿度の分析を行うための技術や、それらのデータをまとめてタイ国内の農作物全体を管理するシステムの構築、ドローンを活用する技術、バッテリーを長持ちさせる技術、そして食物を加工工場に運ぶロジスティクスの最適化を図る技術、食品加工工場でのエネルギーの効率化を図る技術といったさまざまな技術が必要です。
省エネ化やエネルギーの効率化・最適化はエネルギー分野のあらゆる分野に必要です。特にBCG経済モデルを動かすには絶対に欠かせません。これらを得意としているのが日本企業です。日本企業がこれまで培ってきたノウハウをタイのBCG経済とうまく噛み合わせて、かつ互いを発展させるべく両国の企業や研究機関が手を組むことができれば、さまざまなイノベーションが生み出されるはずです。
技術面だけではなく、新しく生み出されるものが導入されやすい税控除や近隣の優遇策、普及させるにあたっての人材育成など、関連する政策や規制も同時に検討して行く必要があるでしょう。そのために必要なのは、いつまでに何をするのかといったメルクマール、ロードマップを作ること。タイではいろいろな機関が川上から川下までの支援策を打ち出していますが、これら支援機関同士の橋渡しによる継続的な支援体制も必要です。
また、BOIの恩典についてはさまざまな場面でわかりやすく説明されていますが、もし可能であれば政策の立案過程で日系企業の声を聞いていただきたいと思います。どうやったら制度が使いやすくなるのかをヒアリングしていただき、議論に関与するチャンスをいただければ多くの企業がいままで以上にBOIに関心を持ち、恩典活動がさらに活発化するのではないでしょうか。」
タイの強みを生かしたBCG経済モデルの可能性|亜細亜大学アジア研究所 大泉教授
大泉教授は、「COVID-19による東南アジアやタイの変化をどう見るか」、「アフターCOVID-19の姿をどのように描いているか」という質問に答えます。
「COVID-19の感染拡大が長期化しているため、COVID-19後を見据えるのは容易ではありませんが、いまから準備をしておかなければなりません。COVID-19後も、EECなどの集積地は日タイの関係の基盤となるはずです。基盤を強化するためには、中国経済にどう対応するのかを考えていくことが重要だと思います。時代の流れに乗るためにもデジタル化が不可欠です。
今回、BCG経済モデルについては話をしませんでしたが、私はBCG経済モデルをタイ独自の政策と考えています。タイの豊富な資源、元からある循環的な考え方を使った政策ではないかと思うのです。もう一つのタイランド4.0ととらえてもいいかもしれません。
タイは、タイランド1.0で米や木材、天然ゴムを輸出し、2.0ではエビをはじめとする食品の加工を行い、農産物を工業化しました。3.0ではハーブや化粧品などタイの資源をグローバル化しましたが、これはタイ独自の成長プロセスだと思います。
同じように、BCG経済モデルもタイ独自の政策として、成長の基盤になり得るはずです。日本企業が協力し、成長の道筋をつけていくべきです。今回のセミナーを通して、私はBCGの可能性が非常に大きいことを実感しました。新しい日本とタイの関係づくりに大いに役立っていくと思います。」
日タイの戦略的パートナーシップを握る4つの鍵|セメンタイホールディング アーリー社長
次に登壇したセメンタイホールディングのアーリー社長に寄せられたのは「日本と一緒にできることは何か」という質問です。
「日タイは、これからもいままで以上に多極的に協力ができると思いますが、戦略的パートナーシップの鍵は4つあると考えています。
1つは共創です。タイをイノベーションのベースとして使ってもらいたい。一例として、クボタがASEAN向けに設立したR&Dセンターを取り上げたいと思います。これは日タイが新たなイノベーションを一緒に作り出し、ASEANマーケットに拡大していく好例です。2つ目はグリーンエネルギー開発です。日タイはともに官民で開発を進めています。弊社も政府のポリシーに従い、グリーンエネルギーの開発を行っています。3つ目は人材の開発と技術提携。両国はさまざまなイノベーションに関して協力をすることが可能だと考えます。脱炭素やスマート農業といった分野では日本は優れているので期待をしたいと思います。最後はスタートアップの奨励です。
これら4つの要素はすべて重要ですが、もっとも大事なのは4つ目です。スタートアップ企業を日タイで商用化しスキルアップをサポートしていく。これは両国の成長を牽引する重要なファクターです。」
日タイの産業の持続可能な発展に向けたTJICの役割|TJIC チラパン会長
続くTJICのチラパン会長は、「産業が向かう方向性」に関する質問を受けて、まず日系企業の特性を取り上げ、産業の発展を図る中でのTJICの役割について説明しました。
「バンコク日本人商工会議所には、合弁も含み1,700社以上もの日系企業会員がおり、会員同士非常に緊密な連絡を取り合っています。日本の良い点はコミュニケーションが活発で各機関の調整がうまくいっている点にあります。情報の共有も素晴らしく、規律があり、明確な方針のフォーマットも有しています。タイにはJETROやJCC、NEDO、JICAなど主要な機関が多数ありますが、それぞれ精力的に活動をしています。
TJICは、そうした日本の機関と積極的にコーディネーションを行ってきました。TJICはタイ国内の日系企業や諸機関と協力し、具体的な活動を各種コラボに発展させて、社会と国家へ一層のメリットを紡ぎ出すことを目的とし、日タイの産業の協力の最初の場所として機能しているのです。
また、日本の投資家とマルチチャネルで協力する機能も備えています。各分野の専門家を用意した上で、45業種にもおよぶ一定のレベル以上のタイ企業と日本の投資家とのマッチングを行い、リストを作成して有益な情報を提供してJV希望者の意思決定をサポートしています。私たちが追求しているのは製造業や農業面で日タイの緊密なパートナーシップを実現し、将来に向けてサステナブルな成功をおさめること。日タイ双方の話し合いの場を提供し、日本からより一層の投資を図っていきます。」
在タイ日系企業としてタイ政府に期待すること|三菱自動車(タイランド)一寸木会長
一寸木会長には「これからもタイを製造拠点としていくためにタイ政府に期待することは何か」という質問が寄せられました。
「当社も含めて、これから先もタイが日系企業にとってはASEANの製造/輸出拠点として非常に重要な国であることは間違いありません。先にもお話しましたが、この関係をさらに磨いていくためのポイントとして3点を挙げたいと思います。
1点目は、現在タイ政府が推し進めているカーボンニュートラル政策についてです。積極的に協力をしていきたいと思いますが、タイ政府には脱炭素社会に向けて現実的な政策をお願いしたい。具体的には電動化の過渡期におけるxEVや消費者ニーズを踏まえたピックアップトラックへの配慮です。 2点目として少子高齢化を乗り越えるために、IoTやロボットを使って生産性を向上しコスト競争力をアップすることです。これらはマストの政策だと考えます。高度人材の育成にもぜひタイ政府のサポートをお願いしたいと思います。 3点目はちょっと難しいと思いますが、人件費の高騰やバーツ高など民間企業ではコントロールが難しい点について政府として何か良い知恵を出していただきたい。これまで官民が協力して努力してきましたが、いまインドネシアが追い上げてきています。タイ政府がこれまで長年続けてきたように、民間企業と十分に対話をした上でバランスの取れた堅実な政策を立案し、実行し続けてもらいたいと思います。」
さらなる日タイの連携の機会創出を|スパイバー(タイランド)森田社長
今回のパネルディスカッションを締めくくるのは、最年少のパネリストであるスパイバーの森田社長です。「新規にタイ進出を果たしたスパイバーがさらなる投資を喚起するためにタイ政府に期待することは何か」という質問に次のように答えました。
「私の場合、タイに進出するまで、タイと接し、タイを知る機会はほとんどありませんでした。タイに来て初めて日タイの親密さや連携について知り、衝撃を受けました。次の社会を担う若い層が相手の国の歴史を知って好きになる。これは何事にもおいても重要な基盤になるはずです。両国の理解が深まる機会をもっと作ってほしいと思います。
また、これからは共創がますます重要になってくると思います。バイオテクノロジーの分野ではさまざまな技術が開発され、その土地でローカライズされています。単純に日本の中央研究所のようなところで研究をするだけでは到底間に合いません。各拠点で研究を行いローカライズしていくためにも、現地の企業やアカデミーと連携し、互いの価値を最大化する取り組みが不可欠だと考えます。」
開催概要
開催日:2021年7月21日(水)
アジェンダ:
1. Opening Speech
外務省事務次官 ターニー・トーンパクディー 氏
2. Keynote Speech 「ポストCOVID-19時代における日タイの連携の方向性について」
タイ国副首相兼外務大臣 ドーン・ポラマットウィナイ 氏
3. Special Lecture 「日タイの協力の新しいステージに向けて」
日本大使館 駐タイ特命全権大使 梨田 和也 氏
4. Panel Discussion 「現在と未来:競争時代における日タイの戦略的経済連携について」
パネリスト
① シハサック・プアンゲッゲオ 氏|EEC 事務局 特別顧問/元タイ王国外務次官/元駐日タイ王国大使館特命全権大使
② チラパン・ウンラパトーン 氏|タイ工業連盟(FTI)日本産業協力機構(TJIC)会長
③ アーリー・チャワリッシーウィンクン 氏|セメンタイホールディング(PCL)代表取締役社長
④ 萬木 慶子 氏|新エネルギー産業技術総合開発機構(NEDO)アジア地域総代表バンコク事務所長
⑤ 大泉 啓一郎 氏|亜細亜大学アジア研究所 教授
⑥ 一寸木 守一 氏|三菱自動車(タイランド)会長
⑦ 森田 啓介 氏|スパイバー(タイランド)代表取締役
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https://mediator.co.th/mofa-envisioning-the-future/
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