産官学の有識者が語る「タイの今後の変化の予測、BCG経済など政府の政策について」|「Envisioning the Future:日タイ戦略的経済パートナーシップ」 レポート Vol.3 - mediator

Blog 産官学の有識者が語る「タイの今後の変化の予測、BCG経済など政府の政策について」|「Envisioning the Future:日タイ戦略的経済パートナーシップ」 レポート Vol.3

2022年06月08日 (水)

販路開拓・進出
産官学の有識者が語る「タイの今後の変化の予測、BCG経済など政府の政策について」|「Envisioning the Future:日タイ戦略的経済パートナーシップ」 レポート Vol.3のメイン画像

2021年7月21日にタイ国外務省と在タイ日本国大使館の共催で行われたオンラインセミナー「Envisioning the Future: 日タイ戦略的経済パートナーシップ」。mediator は本セミナーの企画から運営まで一気通貫の総合プロデュースと司会を務めました。

非常に多くの方々に関心を持っていただき、当日は約1000名の方に参加いただきました。その中でも産官学の有識者により、日タイの経済連携について4つのテーマで意見交換が行われたパネルディスカッション「What now & What next: Thailand-Japan Strategic Economic Partnership in Challenging Time」​​の内容を抜粋して全4回の連載でお届けします。

今回は3つ目のテーマ「タイの今後の変化の予測、BCG経済など政府の政策について」です。テーマ1が「過去」、テーマ2が「現在」だとすれば、このテーマ3で見つめる先は「未来」。BCG経済モデルなど、いまタイ政府が推進している政策・施策をゲストパネリストはどう評価し、今後のタイはどのように変化すると予測しているのでしょうか。ユニークな視点の回答が続きました。

EECを日タイの戦略的パートナーシップのフラッグシップへ|EEC事務局 シハサック特別顧問

本テーマで、最初に回答したのはEECのシハサック氏です。

「EECは日タイの成功体験のレガシーといっても過言ではありません。EECを通して、日タイはともにグローバルマーケットに進出することができました。EECのメリットはたくさんありますが、今後5年をかけて日タイの戦略的パートナーシップのフラッグシップとしてEECを強く訴求していきたいと思います。

EECにはイノベーションやグリーン成長戦略、BCG経済、スタートアップ、バイオテックといったキーワードを踏まえた企業が多数集結しています。イノベーションポリシーのリーダーとして、そのレギュレーションを適用した上でサンドボックスとして機能しているのです。

タイが抱える課題としてビジネス環境の不備がありますが、BOIが税制以外の恩典を提供し、民間部門からも協力を得て、サンドボックスとしてのEECの活用を広く提唱していきたいと思います。

EECへの進出はASEAN進出を容易にするという利点もあります。最新のインフラを使用できるというのもEECのメリットの一つ。EECを日タイ両国の協力のフラッグシップとして積極的に協議を進めてもらいたいと思いますが、日本との協力に関しては新たなアイデアが必要でしょう。EECの活用方法や両国が互いに納得できる明確なターゲット産業について日系企業との会話を深めるべきです。

タイのBCG戦略と日本のグリーン成長戦略の方向性が合致しているのは非常に大きなアドバンテージといえます。両国が話し合いを重ね、さらに具体的な施策や活動に落とし込めば、EECに続く新たな成功例が誕生すると思います。」

EECを成功に導いたシハサック氏ならではの着眼点と意見でした。

農業資源国タイの理にかなったBCG経済モデル|NEDO 萬木所長

続いてNEDOの萬木所長が「タイのBCG経済モデルをどのように評価するか」という質問に答えます。

「タイはアジアでも有数の農業資源国。農地面積は実に国土の40%を占めています。これは日本の4倍強の広さと聞いています。また恵まれた気候、複数回の収穫、収穫高の多さから常に輸出価格競争力を保ってきました。このような前提条件を考えると、タイ政府が打ち出しているBCG経済モデルは非常に理にかなっていると考えます。

過去、多くの国がタイに進出してきました。自動車、電気産業など、タイの低賃金労働力やあまり厳しくない規制もあいまって、タイ政府は外国の企業を積極的に誘致し、経済成長を成し遂げました。こうした産業基盤をベースにして、新たな日本企業のプレイヤーが活躍できるか否か。その鍵を握っているのがBCG経済です。バイオマスを生かした材料や素材の開発、加工技術は、人々のニーズが多様化している昨今、新たな市場を創出することは間違いありません。

市場創出を可能にする最初の場所はEECになると思いますが、そのためにはグリーン経済の実現に欠かせないエネルギーの効率化や省エネルギー化が重要です。これは、製造業を含めて、すべての産業に共通する条件といえます。BCG経済モデルは既存の産業のアップデートを促し、経済成長を喚起するはずです。高度経済成長の中で日本が培ってきたノウハウや国内で取り組んできたさまざまな経験が活かせる分野だと考えます。日本とタイが共に歩み出せる関係が築けることを期待しています。」

農業資源国のタイにとってBCG経済モデルは合理的な選択であり、日系企業にとっても大きな勝機が横たわっていることを浮き彫りにした回答でした。

タイの経済社会における人口減少や少子高齢化の影響|亜細亜大学アジア研究所 大泉教授

大泉教授は「タイの経済社会における人口減少や少子高齢化の影響をどう考えるか」という質問に答えます。

「タイはすでに少子高齢化が進行しており、女性の合計特殊出生率は1.5と日本とほぼ同じ水準です。労働力不足も目立ち、すでに現時点で近隣諸国から労働力を賄っている形です。

では、労働力不足にどう対抗すべきか。私は、キーワードはデジタル化にあると考えます。こう言うと、タイにおいてデジタル化にどれほど効果があるのかと思われるかもしれません。しかし、スマホの普及率を考えてみてください。タイの100人あたりの契約件数は187件。これは東南アジアでNo.1であり、日本よりも高い数字です。フードデリバリーやリモートワークもタイでは常態化しています。デジタル化の準備はすでに整っているのです。

こうしたことを踏まえた上で、私は労働力不足を補う3つの視点を挙げたいと思います。
一つは、ビジネスの現場のデジタル化です。IoTの活用により製造業の生産工程を見える化し、在庫管理から物流、人事や会計に至るまでアプリなどを駆使して、現場をデジタル化することです。日本の製造業はタイに多数進出していますが、システムが古いままの工場が少なくありません。これは一刻も早く変えて、現場のデジタル化を推進してほしいと思います。

二つ目はグローバルサプライチェーンのデジタル化です。2011年の大洪水を機にサプライチェーンのデジタル化はかなり進んではいますが、さらなる効率化を図るためデジタル化は必至でしょう。グローバルサプライチェーンは人権問題や環境問題への対応も不可欠です。また、EECや集積地だけではなく、海外企業や本社もデジタル化することが急務です。

三つ目は、タイのDX(デジタルトランスフォーメーション)に合わせたデジタル化を図ることです。いま世界レベルでDXが進んでいますが、進展の度合いや方向性は国によって異なります。既得権益の大きさ、デジタル人材の多寡、アナログの制度の成熟度といった要因に左右されるからですが、ビジネスにおいてはそうした要件を踏まえたデジタル化の実現が必須です。例えば、タイはよく「噂社会」と言われます。LINEを使ったコミュニケーションが非常に活発なお国柄です。タイではSNSを活用したデジタル化が求められます。タイのDXに合わせていくには、タイ発のスタートアップの活用も必要だと思います。」

3つのトレンドとSCGの取り組み|セメンタイホールディング アーリー社長

次に、「今後のタイの変化をどう予測するか」という質問に回答したのが、セメンタイホールディングのアーリー社長です。タイを代表する大企業のトップは、今後のタイの変化をどのように予測しているのでしょうか。

「トレンドはたくさんありますが、ここでは3つをハイライトしたいと思います。一つは、温暖化です。世界の重要なトレンドといえますが、BCG経済モデルやグリーン成長戦略に見るように、両国ともにすでに政策を打ち出しています。二つ目はDX。多くのビジネスがDXを推進しています。組織の中での変革が強く求められているからです。三つ目は高齢化社会。タイは完全に高齢化社会に移行しました。否応なく高齢化社会に対応していかなければなりません。そのためにはマインドセットを変える必要があります。

こうしたトレンドをご理解いただいた上で、バイオ経済、循環経済、グリーン経済の3つを柱とするBCG経済モデルが日本のグリーン成長戦略と呼応していることを強調したいと思います。2つの政策はそれぞれに対応しているのです。例えばBCG経済モデルのバイオ経済には、日本の食品産業やスマート農業といったセクターが対応しています。循環経済に対応しているのはカーボンリサイクルやバイオ燃料であり、グリーン経済には水素関連産業やライフスタイル関連の産業が対応しています。民間レベルでもコラボレーションすることは十分に可能でしょう。

ここで、3つのトレンドに沿ったSCGグループのサンプルモデルを紹介しましょう。一つはZERO BURN。PM2.5の削減を図る事業です。稲わらやとうもろこしの葉を燃やすとPM2.5が排出されてしまい環境に負荷を与えますが、わらや葉をすべて回収し、丸めてバイオマスや家畜の飼料にすればPM2.5の排出を抑えられるだけではなく、付加価値を上げることで収益アップにもつながります。
グリーンエネルギーを作るフローティングソーラーパネル事業では120メガワットの発電量を確保しています。また、新製品としてハイブリッドセメント(ローカーボンセメント)を作り、温室効果ガスを削減しています。これらはいずれもBCG経済モデルを現実のビジネスに具現化した取り組みです。

DXに関しては、SCGグループは大きなチャンスととらえ、この分野に関心のあるパートナーと手を組み、ビジネスを展開しています。例えばノックノック。建材や内装関係のマーケットプレイスです。CVC(コーポレートベンチャーキャピタル)も設け、すでにかなり多くの企業とJVを組みました。SCGの社内にもスタートアップを作り、DX化に向けた事業を推進しています。」

アーリー氏が紹介した具体的な事例は、社会問題を解決しながらビジネスへと結びつけていく好例です。スタートアップには日系企業の参加も期待できるのではないでしょうか。

脱炭素・低炭素社会の実現とこれからの自動車産業|三菱自動車(タイランド)一寸木会長

一寸木会長は、「脱炭素・低炭素社会の実現における運輸部門の責務・役割をどう考えるか」「グリーンビジネスはチャンスか否か」という質問に回答しました。

「カーボンニュートラルへの対応についていえば、タイの輸送部門は排出量の26%を占めています。この数字を減らすのは『マスト』であり、必然であると認識しています。事業的に制約がある、あるいはコスト高であるといったことにとらわれず、いかに成長の機会に転換していくかを考えていかなければなりません。

そのためには、総合的な視点、つまりLCA(ライフサイクルアセスメント)の考え方が必要です。自動車の電動化だけでなく発電のグリーン化もマストであろうと考えています。最近、欧州委員会からはLCAをベースにしてCO2排出量の高い国からの輸入製品には関税をかけて規制を強めるという話が飛び出しました。電源のグリーン化は非常に重要な課題です。

二番目に、自動車産業全体を見渡した政策の実装です。エンジンの部品を作っているサプライヤーの仕事が急になくなることがないように、段階的な変革と移行期を支える政策を実行していただきたいと思います。それからお客様ニーズへの対応も重要です。電気自動車を作ったのはいいけれど、値段が高くて長い距離を走れないのでは消費者に買ってもらえません。

またバンコクと地方でライフスタイルがまったく違う点にも留意する必要があります。バンコクでは乗用車が中心ですが、地方ではピックアップの利用が非常に多いため、現在のBEVではお客さまのニーズには十分に応えられません。これらを総合的に考えると、エンジン車とEV車の価格差を埋め、移行期においてはxEV(さまざまな種類のEV)を普及させて、エネルギーのグリーン化を進めることが需要です。

新車だけではなく、現在走っている車の排出ガスをどう減らしていくかという課題に取り組む必要もあるでしょう。長期的には低炭素の燃料や水素なども含めて、どういった技術がベストなのかを自動車メーカーとして見極めていくことも大事だと考えています。

自動車の話題から離れますが、タイの場合、脱炭素という視点から農業についても考えていく必要があると思います。重要なのは、全体を見ながら健全な政策を実施すること。もちろん自動車メーカーとしても自らの役割をきっちりと果たしていきます。」

BCG経済モデルへの適応が鍵 〜 タイの産業の未来|TJIC チラパン会長

総合的な視点の必要性を強調した一寸木会長の後、TJICのチラパン会長が「これからのタイの産業が向かう方向性」について答えます。

「BCG経済モデルは、その概念が理解されるまでにはまだ時間がかかるため、かなりの投資が必要になるでしょう。しかし、タイ政府が産業高度化政策「タイランド4.0」で定めている重点産業「新Sカーブ産業」の5つの産業(ロボット/自動化、航空機産業・物流、バイオ燃料/バイオ科学、医療・ヘルスケア産業、デジタル産業)はすべてBCG経済に関連するものです。

5つの産業はそれぞれにすそ野産業を抱えており、これらのマーケットに参入する企業はBCG経済モデルのポリシーに適応する必要があると考えています。さらにいえば、既存のサプライチェーンもこのポリシーに対応しなければなりません。企業は早めに準備していただくようお願いします。
政府に対しては、投資家のレジリエンスに応じて、低金利や長期の融資、資金調達リソースや税控除など投資に対する検討が必要だと考えています。これらは企業に対してはメリットになるはずです。

タイ政府はいま100%のEV化を加速させ、さまざまな実践可能な政策を進めています。ただここには大きな障壁があります。充電ステーションが不足していることです。充電ステーションが全国になければEVを全国に普及させることは困難です。ガソリンスタンドを転換するにしても時間がかかります。しかし、ガソリンスタンドと違って、充電ステーションは広大な敷地を必要としません。それはEVの優位性といえます。」

EVへの移行期間は、社会が追いつくようにステップバイステップで段階的に進めていく必要があり、官民両方が話し合いの機会を設けることも重要となってくると言えるでしょう。

素材産業のサプライチェーンの未来|スパイバー(タイランド)森田社長

このテーマの最後に登壇したのは、スパイバーの森田社長です。「素材産業のサプライチェーンにおける競争力とは何か」、「競争力を高める上での要諦とは何か」という質問に森田氏は明快に答えます。

「バイオ産業では微生物を使って発酵生産を行います。ここで重要な役割を果たすのが糖です。とりわけ、クリーンな糖であることが求められます。クリーンというのは人権的にも環境的にもクリーンであるということ。SDGsの流れで人権や環境への配慮が不可欠になりました。これは非常に大切な観点だと思います。

私たちはキャッサバ由来の糖など、可食資源の糖を使用していますが、今後5年〜10年で非可食資源から糖を作ることが求められてくるはずです。NEDOの萬木所長のバガスのお話にもあったように、食物の残渣からいかに糖を作るかが今後重要になってくると思います。いまのところ可食資源の使用に問題はありませんが、この先、可食資源を使用することには批判が高まってくることを予想されるので、タイは両方のオプションをしっかりと持つことが重要なポイントではないでしょうか。」

クリーンな糖という表現が印象的です。食べられない資源をいかに政策的に作っていくか。森田氏の話は、いま農業関係者に大きな気づきを与えたのではないでしょうか。

続きはこちら >>> レポート Vol.4

開催概要

開催日:2021年7月21日(水)
アジェンダ:
1. Opening Speech
外務省事務次官 ターニー・トーンパクディー 氏
2. Keynote Speech 「ポストCOVID-19時代における日タイの連携の方向性について」
タイ国副首相兼外務大臣 ドーン・ポラマットウィナイ 氏
3. Special Lecture 「日タイの協力の新しいステージに向けて」
日本大使館 駐タイ特命全権大使 梨田 和也 氏
4. Panel Discussion 「現在と未来:競争社会における日タイの戦略的経済連携について」
パネリスト
① シハサック・プアンゲッゲオ 氏|EEC 事務局 特別顧問/元タイ王国外務次官/元駐日タイ王国大使館特命全権大使
② チラパン・ウンラパトーン 氏|タイ工業連盟(FTI)日本産業協力機構(TJIC)会長
③ アーリー・チャワリッシーウィンクン 氏|セメンタイホールディング(PCL)代表取締役社長
④ 萬木 慶子 氏|新エネルギー産業技術総合開発機構(NEDO)アジア地域総代表バンコク事務所長
⑤ 大泉 啓一郎 氏|亜細亜大学アジア研究所 教授
⑥ 一寸木 守一 氏|三菱自動車(タイランド)会長
⑦ 森田 啓介 氏|スパイバー(タイランド)代表取締役

▼プレスリリースはこちら▼
https://mediator.co.th/mofa-envisioning-the-future/

▼全編の動画はこちら▼
https://youtu.be/vgyQ4BS3PxM

▼全編を記録したebookはこちら▼
https://www.mfa.go.th/

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執筆 mediator

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