セミナーを振り返って
本セミナーでは、企画段階から深く関わり、今後のイベント企画や運営のヒントとなる新たな可能性を見出せた貴重な機会となりました。今回のセミナーを開催するにあたって、タイ外務省の要望は「学術層ではなくビジネス層へアプローチしたい」というもの。学者や役人だけが語る従来型のセミナーでは、民間にはなかなかその真意が伝わりにくくなってしまいます。そこで mediator は、両国からそれぞれ大企業と中小企業を代表するパネリストを1名ずつ選定し、パネルディスカッションを行うことで、官民の対話ができる場作りを目指しました。
また、通常タイ・日本間でこのようなイベントを行う場合、全体を指揮するディレクター役、タイ側と日本側の参加者の調整を行う窓口役、そして通訳をそれぞれ別の人物が担当しますが、mediator ではこれらを全て1人で担当。同じ担当者がタイ側と日本側の両方を直接対応することで、食い違いや確認の手間が減り、スムーズに進めることができるのです。これは、mediator がこれまで経験の中で導き出した答えの一つです。
最後に、本セミナーで司会を務めた mediator の代表ガンタトーンは、次のように本プロジェクトを振り返りました。
「タイと日本の両政府は東部臨海開発計画(Eastern Seaboard)以来これまで40年以上にわたり、良好な関係を築いてきました。しかし、誰もが今、両国の関係をより強固なものにするためには新たな風が必要と感じています。これまでの経済戦略は政府主導だったけれども、これからは官民主導となることが必要不可欠。その中で、今回 mediator が一民間企業として間に入り、両国の官民の意思をすり合わせすることができたのは誇りであり、mediator が創業以来志してきたことが実現できた瞬間でもあったと思います。」
mediator は、今後もイノベーティブな発想を持った民間企業を巻き込みながら、タイと日本の両政府と民間企業が対話をできる場作りと社名に掲げている “mediator(調整役)” としての役割を務めていきたいと思います!
プレスリリース
2021 年 7 月 21 日、タイ国外務省と在タイ日本国大使館は、日タイ経済の今後の戦略的連携について議論するため、産官学の有識者を招き、「Envisioning the Future: 日タイ戦略的経済パートナーシップ」と題するオンラインセミナーを共催し、約 1,000 名の参加者にご視聴いただきました。要旨は以下の通りです。
タイ国副首相兼外相ドーン・ポラマットウィナイ氏は、「ポストコロナ時代の 日タイ関係の前進」という題目の基調講演を行いました。ドーン副首相兼外相は、タイ日関係は 134 年もの長きにわたって緊密な関係が続いているが、それは、あらゆる困難を乗り越えた「真の友情と助け合い」の期間でもあった。そのような中、今般の新型コロナウイルス感染症のパンデミック危機は、経済、社会及び人類のライフスタイルに広範に影響を与え、両国において、社会経済における各種システムの開発及び創出を重視させる結果をもたらした。今後は、経済特区、地域及びグローバルそれぞれのレベルにおいて、「持続可能で包摂的な成長」を重視し、平 和と国民の持続可能な幸福を追求した方向へと向かう必要があると述べました。
また、同副首相兼外相は、日本に対し、経済戦略パートナーシップ強化のための協力スキームを提案しました。同スキームは、タイの BCG(バイオ・循環型・グリーン)経済モデルと日本の「グリーン成長戦略」に合致するものであり、以下の4項目で最大限のメリットを引き出すことを目的としています。
①30 年以上の主要自動車製造拠点としてのタイの経験とともに、日本からの技術移転によるノウハウを活用し、タイにおける自動車産業をクリーンエネルギーEV 車両(ZEV)産業へと移行する。
②経済サイクルエコシステム内で、バイオ燃料とバイオマスによるバイオサイクルを作り出す。同分野は、タイにポテンシャルがあり、日系企業も当該セクターでの投資を増やすことを意図している。
③食品業界においては、タイは生物多様性のある豊富な資源からトータルな食品製造拠点を有しており、将来性のある日系企業を誘致し、グローバルバリューチェーンで最大限のメリットを発揮するため協力していく。
④BCG 経済に関する産業部門での起業家育成(インキュベーション)と人材スキル育成においては、タイ国内の高専教育機関での教育カリキュラム開発を急ぎ、産業界と大学間の協力ネットワークを産み出す。人材育成はタイ国内での日系企業の投資を促進する重要な要素であり、特にテクノロジー及びイノベーション力のあるスタートアップ企業による投資を目指す。
在タイ日本国大使館全権特命大使梨田和也氏は、「日本とタイの協力の新たなステージに向けて」という題目の特別講演を行いました。
梨田大使は、10 年前に日本が経験した東日本大震災、そしてタイでの大洪水といった両国が経験した困難において、両国の友情の絆が発揮されたと強調し、両国は常に固い絆をもって助け合ってきたと述べました。最近、日本がタイに対し、アストラゼネカ・ワクチン約 105 万回分を贈与したことや、タイにおけるコロナ対応に様々な支援を行っていることを紹介しました。
梨田大使は、タイが日系企業の重要な製造拠点であることに変わりないという点を強調した上で、日タイの協力関係は新たなステージに向かう局面にあるとし、「共創」と「サステナブル」という2つのキーワードを掲げました。「共創(co-creation)」については、日本とタイが相互に補い合ってイノベーションを創出し、パートナーとしての協力を深めることが重要であると指摘しました。
また、昨年、日本政府が日 ASEAN 双方の企業が協業しデジタル技術を活用して社会課題解決を図る実証事業の支援を行ったところ、タイは支援件数が ASEAN トップであったとし、「共創」においてタイは日本におけるASEAN の最大のパートナーであると述べました。「サステナブル」に関わる産業分野での協力強化においては、日本はタイの低炭素社会実現に向けて政府間の協力関係を構築しているほか、「グリーン成長戦略」において、カーボンニュートラル実現に 向けた研究開発に対する 2 兆円(約6000 億バーツ)の基金を設立するなどかつてない規模の政府支援を行っており、これは、将来、日系企業によるグリーン分野におけるタイでの事業展開・新規投資を喚起するものと述べました。
パネルディスカッション「What now & What next: Thailand-Japan Strategic Economic Partnership in Challenging Time」では、①EEC 事務局 特別顧問/元タイ王国外務次官/元駐日タイ王国大使館特命全権大使シハサック・プアンゲッゲオ氏、②タイ工業連盟(FTI)日本産業協力機構(TJIC)会長チラパン・ウンラパトーン氏、③セメンタイホールディング(PCL)(SCG グループ)代表取締役社長アーリー・チャワリッシーウィンクン氏、④新エネルギー産業技術総合開発機構(NEDO)アジア地域総代表バンコク事務所長萬木慶子氏、⑤亜細亜大学アジア研究所教授大泉啓一郎氏、⑥三菱自動車(タイランド)会長一寸木守一氏、⑦Spiber (タイランド) 代表取締役森田啓介氏の 7 名をパネリストにお迎えし、これまでの日タイ戦略パートナーシップに関するバリュー、そして今後の日タイ経済協力の方向性に関する意見交換が行われました。
パネルディスカッションでは、タイの BCG 経済モデルと日本の「グリーン成長戦略」の親和性、特に、製造業をはじめすべての産業に通底し、そして日本が競争力を有するエネルギー効率向上や省エネにおいて、日系企業による BCG 経済への貢献の可能性が示唆されました。また、BCG に関する具体的な分野として、カーボンニュートラル社会の実現のために今後の自動車産業のあるべき形や、農業立国を先端分野の技術革新で発展させていくバイオ産業の可能性への期待が寄せられました。
さらに、人材育成とデジタルテクノロジーの応用展開の重要性のほか、東部経済回廊(EEC)を中心とした日系企業の更なる新規投資・事業拡大の受け皿の整備などについて意見交換がなされました。これらは、タイにおいて既に利用可能な産業アセットやインフラ、そして豊富な天然資源を活用し、地域の輸出製造拠点としてのタイの強みを日系企業に対しより一層アピールするものです。また、来年国交樹立 135 周年を迎えることを機に、今後5ヶ年の相互戦略パートナーシップ計画を策定することで、日系企業からの更なる投資を促進できるのではないか、日タイが協力して有望市場である中国への事業展開に備えるべきではないか、といった提案もありました。
セミナーの全編の動画をご視聴いただけますので、ご関心のある方は以下のリンクよりアクセスください。
▼タイ語版動画https://youtu.be/GaMu3Jr39cU
▼日本語版動画
https://youtu.be/vgyQ4BS3PxM