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こんにちは、mediator 代表のガンタトーンです。僕は、現在進めている「TJRI」プロジェクトの一環で、これまで100社以上のタイの大手企業の経営幹部にインタビューを行ってきました。彼らと対話をする中で、ビジネス戦略の一つとして日本企業との協業を視野に入れているタイ企業が想像以上に多いことを知りました。そこで、タイで活躍する日本人の皆様へ「タイ人経営者のビジネス観や日タイの協業ビジョン」を軸にした彼らの生の声を今回より連載でお届けします。
第1回目は、タイ屈指の名門企業SCGを代表してセメンタイ・ホールディングの社長アーリー・チャワリッチーウィンクン氏にお話を伺いました。SCGは1913年にラマ6世によって設立されました。主に建材化学薬品を製造しており、売上は130億ドル。そのうち、ASEANの売上は30億ドル、ASEAN全体で約60,000人を雇用しています。
Q. SCGは日本企業とさまざまな事業に投資をしていると思いますが、これまでの経緯を教えてください。
アーリー氏:これまでSCGは日系企業といくつもJV(Joint Venture:合弁会社)を設立し、成功をおさめてきました。43年前に始めたクボタとのJVを皮切りにニチレイ、三菱ケミカル、トヨタタイランドなどパートナーは着実に増え、今では27の企業とJVを手掛けています。
Q. 43年前というと、EECの前身のEastern Seaboard時代から日本企業とのJVで成功モデルの基礎を築いていたということですね。SCGにとって日本企業はどのような存在でしょうか。
アーリー氏:日本は3つのバリューをタイにもたらしました。一つ目は言うまでもなく経済成長。特に自動車の輸出に多大な貢献をしました。二つ目は、イノベーションや技術開発です。これらによってタイの産業は大きくボトムアップしました。三つ目は日本の技術を駆使したCSR活動です。直近では、COVID-19の感染拡大で病床が不足していた時に、積水ハウスがプレハブ技術を使って、1棟10室のICUをわずか10日で作りあげました。このほか、COVID-19の抗体検査室150室やダンボールの簡易ベッド5万床を寄付しました。これらはテクノロジーをCSR活動に応用した好例です。
Q. これからの日タイの民間企業の協業の可能性や期待値を教えてください。
アーリー氏:民間企業レベルでもコラボレーションすることは十分に可能だと考えています。両国のトレンドとして温暖化、DX、高齢化社会が挙げられます。タイの「BCG(バイオ、循環、グリーン)経済モデル」と日本の「グリーン成長戦略」は呼応しています。例えばBCG経済モデルのバイオ経済には、日本の食品産業やスマート農業、循環経済にはカーボンリサイクルやバイオ燃料、グリーン経済には水素関連産業やライフスタイル関連の産業が対応しています。
Q. 最後に日タイの企業がパートナーシップを組む上で重要なことはなんでしょうか。
アーリー氏:戦略的パートナーシップの鍵は4つあり、一つは共創です。タイをASEANマーケットに拡大していくイノベーションのベースとしてぜひ使ってもらいたい。2つ目は日タイの官民で既に進めているグリーンエネルギー開発です。3つ目は人材開発と技術提携。特に脱炭素やスマート農業といった分野では日本の優れた技術に期待しています。最後はスタートアップの奨励。スタートアップ企業を日タイで商用化し、スキルアップをサポートしていくことが、これからの両国の成長には欠かせません。
まとめ
タイを代表する大企業SCGを支えているのは日本企業であり、アーリー社長のお話は、今後の日タイの協業の新たな可能性を示してくれたと感じました。市場が成熟しつつあるタイは、かつての安く安定したモノづくりの拠点ではなくなり、今後の日タイの経済協力はSCGの例のように民間企業同士のニーズをマッチングし、従来よりも投資する動機の精度を高める必要があります。チャレンジングではありますが、そこには大きなビジネスチャンスがあり、日タイの投資を促進することにも繋がると僕は信じており、TJRIプロジェクトを立ち上げました。ぜひ日本企業の皆さんにも次の時代を一緒に切り開いて欲しいと思います。