製造業の現場・職場と組織全体で、”カイゼン”の成果を出す方法とは? - mediator

Blog 製造業の現場・職場と組織全体で、”カイゼン”の成果を出す方法とは?

2020年05月10日 (日)

インタビュー
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JMAC(Thailand)Co., Ltd.は、戦後の日本産業界を支え、「トヨタ生産方式」を担う人材育成に貢献してきた日本能率協会コンサルティングのタイ拠点として、製造業を中心に業務改善のコンサルティング業務を手掛けています。

日本とは価値観も働き方も違い、ブルーカラーとホワイトカラーの業務改善ポイントも異なるタイで、製造業はいかにして業務改善を進め、組織力を高めていけば良いのでしょうか。mediator co., ltd. の代表であるガンタトーンがJMAC(Thailand)Co., Ltd.の社長、勝田博明氏とチーフコンサルタントのアタポン・ソンシリ氏にお話を伺いました。

ロジカルな「インプット」がなければ「アウトプット」も得られず、「アウトカム」にも至らない

ガンタトーン:
タイの産業界にもカイゼンという言葉はすっかり定着したように思います。ただ、どれぐらい正しく理解されているのでしょうか。まずは、カイゼンの真の定義を教えてください。

勝田氏:
昨日より今日、今日より明日を良くしていくことです。カイゼンを英語でいうと、Continuous Improvement。現状あるものを理解して、良い状態に変えて続けていくことを意味します。

ガンタトーン:
続けることが大事なんですね。

勝田氏:
「そうです。カイゼンとは常に良くし続けること。欧米のような、上からの指示を受けてシステムを都度更新していく階段状の変化ではなく、断続的に直線的に伸びていく変化がカイゼンです。面積にすると階段状よりも直線の方が大きくなりますが、それは集団としての総合力が発揮されるから。

誰か一人が司って進めていくのではなく、組織や集団、全体として進めていく。トップが指示命令はするものの、ミドルやボトムにも権限がある。一人ひとりがオーナーシップマインドを持ち、各階層が主体的に進めるのがカイゼンです。

ガンタトーン:
なるほど。タイに進出した日本の会社がカイゼンを進めていく上で足りないことは何でしょうか。

勝田氏:
日本人はどうしても現場主体で動いてほしいと考えますが、タイを始め、ASEAN各国は権力格差を受容する度合いが強く、トップダウンの指示を受け入れやすい傾向にあります。そのため、指示待ちの姿勢が強く、明確な指示を出すことが上の役割だと考えてしまうんですね。

ここに日タイの大きなギャップがあります。これはどちらが良い悪いではなく、価値観の違いです。カイゼンをうまく進められる経営者は、この違いをよく理解しています。

アタポン氏:
私が見る限り、カイゼンが滞っている会社の日本人経営者は、そばにいるマネージャーともそもそもうまくいっていません。普段のコミュニケーションに問題がありますね。そこで足りないのは圧倒的に「知識」です。カイゼンについて理解しているというタイ人にその内容を詳しく尋ねてみると、ちゃんと答えられないことが多いんですよ。

それは知識がないからです。上の努めは、下に目標を伝えること。しかも、ただ伝えるのではなく噛み砕くことが大事です。この目標を達成すると何がどう変わるのか、会社の利益とどうつながっているのか、自分の人生にどのような影響を与えるのかをわかりやすく伝えないといけない。カイゼンを進めていく上での重要なポイントです。

勝田氏:
製造業であれば、それぞれの工程、製品、サービスについての固有技術、固有情報に加えて、マネジメントスキルも必須です。

例えば、QCストーリーに則り自工程内で問題解決しようとすることは勿論土台となりますが、自工程内に留まることなく、上流の工程にさかのぼって原因を見つけ、ときには設計を変更しなければならないかもしれません。「これはしてはいけない」とうい思い込みを捨て、ときには前提条件を打ち破る必要もありますね。

ガンタトーン:
日本でのモノづくりの実績をタイに移植しようとしている日系企業は多いですが、うまくいっていますか?

勝田氏:
「継続的な成果の刈り取り」、つまりカイゼンの成果が出るところまでやりきり、それが会社の文化として継続する状態になっているところは少数派でしょう。カイゼンの成果がKPIとなって表れて、財務諸表に乗るレベルに達する状態です。

ガンタトーン:
単なるアウトプットではなく、アウトカム(結果、成果物)を出せる状態ですね。

勝田氏:
そうです。理解がなければアウトカムにはつながらず表面的なカイゼンに終わってしまいます。

アタポン氏:
タイ人の中には、そもそもインプットの重要性をわかっていない人も多いです。知識がろくにないまま、勘と経験で仕事をしている。でも、ロジカルなインプットがなければ正確なアウトプットも得られず、アウトカムにも至りません。自分のやりたいことをただやるだけではお祈りに近い(笑)。いま何が足りていないのか、何をすべきなのかの知識のインプットも必要です。

ホワイトカラーに必要なのは自分たちがやっている仕事を可視化すること

ガンタトーン:
次に間接部門、つまりホワイトカラーのカイゼンのポイントについて教えてください。

勝田氏:
ホワイトカラーのカイゼンでは、ロス削減だけに終始すると失敗する、ということは強調したいですね。カイゼンが進んだといっても、ワークフローのカイゼンだけ。

ECRSの原則(Eliminate=排除、Combine=結合と分離、Rearrange=入替えと代替、Simplify=簡素化を行い業務効率化を行うこと)に従って果てしないムダ取りに追われ、思考時間はどんどん削られてしまいます。それは乾いた雑巾を絞るようなもの。人間には考えるパートが必要です。働く人の喜びがなくなってしまっては、クリエイティブに考える余裕が消えてしまいます。

ガンタトーン:
乾いた雑巾という表現は言い得て妙ですね(笑)。

勝田氏:
80年代から90年代にかけて、「人」にも着目しなければ本当の業務改善とは言えないという認識が生まれました。しかし、浸透には時間がかかり、2000年代に入ってから日本企業の技術・開発部門や本社などのコーポレート部門では、過酷な効率化が進んで鬱になる人が続出しました。それがいまの働き方改革につながっています。結局、一人ひとりの「ガンバリズム」に依存しては立ち行かなくなるんです。

アタポン氏:
人事や経理、購買といった部門は、生産部門のようなわかりやすい目標がないので、カイゼンを受け入れにくい体質があると思います。間接部門は「カイゼンの主役は自分たちではない」という思いが強いんですね。これを解消するには、自分たちがやっている仕事を可視化すること。経理のレポートだったら作成にどれぐらいかかっているのか。修正がどれぐら発生しているのかを明らかにする。その上で減らす方法を考えるべきでしょう。

人事部門であれば、各部署から「もっと人を入れてほしい」と要求されたときに「探すのに1ヶ月はかかる」と答えるのではなく、タレントマネジメントなどと大上段に構える必要はないまでも、例えば日頃から社員のプロファイル一覧を作成しておく。それができればずいぶんと違います。

ガンタトーン:
マネージャーから前もってどんな人材がほしいのかを細かくヒアリングしておくんですね。

アタポン氏:
そうです。できない理由ばかりを探しても仕方がない(笑)。「時間がない」と嘆いている人に、今日はどんな仕事があるのかを尋ねると、「わからない」ということがよくあります。

ある会社では、毎月ゴミ箱を購入していたので理由を調べてみたら、各自が一人1個ゴミ箱を所有していたのです。すぐ近くに大きなゴミ箱があるのにもかかわらず、ですよ。そして、各自のゴミ箱には、仕事とは何の関係もない食べものばかりが入っていました。まずゴミ箱を減らすことを提案したことは言うまでもありません(笑)。仕事の重要度に応じて優先順位をつけることも大事です。

ガンタトーン:
うちの会社にも心当たりがあります。見えないものをいかに見える化するか。効率化の前に可視化が必須なんですね。今回の話は耳が痛い(笑)。

ファクトファインディングがないと「今年もがんばろう!」で終わってしまう

勝田氏:
さきほども言いましたが、日本人はガンバリズムのマインドが強いんですね。当の日本人も辟易していると思いますが(笑)、これをタイ人に期待してはダメ。ワークライフバランスの観点からいえば、タイのほうが日本よりもずっと先進国ですよ。

ガンタトーン:
ワークライフバランス先進国のタイ…物は言いようですね(笑)。

勝田氏:
ビジネス環境は厳しくなる一方ですから、タイ人の価値観とうまくつきあっていかねばなりません。そのために必要なのがコミュニケーションです。言語がわからないから理解できないと言う人が多いのですが、言語はコミュニケーションバリアの5、6番目の要因でしかありません。

大切なのは、ロジカルに物事を共有すること。目指している目的地、いまやっている仕事のアウトプットのイメージを理解してもらうことです。ホワイトカラーは見えていないことが多いですから、この辺りはいちいち伝えなくてはいけません。

ガンタトーン:
第三者のコンサルだからこそできることもたくさんありますね。

勝田氏:
ええ。ファクトファインディングは非常に重要ですが、当の本人たちでは気づけないことばかりでなく、気づいていても表に出せないことが多々あります。自分の意志や問題意識を第三者がコーチング的に引き出すことで、本人の再認識が促されるだけでなく、組織としての改善ネタが見つかることが多いです。

アタポン氏:
私も、ファクトファインディングを行ってロジカルに説明し、納得してもらうことがコンサルの重要な役割だと思います。ある会社の場合、最初はトップの意識に問題があるとされていましたが、よく調べみると現場にもっと根深い問題が横たわっていることが判明しました。そうした問題意識を明らかにして、皆んなで共有することがカイゼンには必須です。

とはいえ、コンサルがお客様の代わりにやるのでは意味がない。コンサルの役割は、お客様を良い方向に導き、自分でできるように持っていくこと。そうでなければ、コンサルがいなくなったとき、すぐに元に戻ってしまいますから。

勝田氏:
ファクトファインディングがないと、なんとなく「今年もがんばろう!」で終わってしまいます(笑)。それでは、アウトプットを出せるインプットが一つもないのと同じですよ。ありたい姿、目指すべきアウトプットの形と、インプットのギャップを埋めていくためにもファクトファインディングが欠かせません。

ガンタトーン:
製造部門だけでなく、本社部門や間接部門でのカイゼンのポイントがよくわかりました。今日はありがとうございました。

三田村 蕗子の画像
執筆 三田村 蕗子

ビジネス系の雑誌や書籍、Webメディアで活動中のフリーライター。タイをもう一つの拠点として、タイはじめとするASEANの日系企業や起業家への取材も手掛ける。新しい価値を創出するヒト、店、企業の取材が得意技。コロナ禍で絶たれたタイとの接点をどう復元するか模索中。

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