これからの海外戦略に必要なヒントがここに。先進的な生活者「トライブ」から見える未来 - mediator

Blog これからの海外戦略に必要なヒントがここに。先進的な生活者「トライブ」から見える未来

2020年02月27日 (木)

インタビュー
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海外で新しい事業を軌道に乗せたり、売れる商品を開発するということは、そう容易なことではありません。日本では当たり前のように通じてきた価値観や発想が海外では通じず、大きな壁となって立ちはだかる。「現地の人の声を聞け」「コミュニケーションだ」とはよく言われますが、一概に「聞け」と言われても誰に何を聞いたら今の課題に活路が見出せるのか…行き詰まり感を感じている方も多いのではないでしょうか。

今回は、数年先の生活をすでに”いま”実践している先進的な生活者「トライブ」という存在を切り口に、商品開発や新規事業の開発をサポートしている博報堂の社内イノベーション専門チーム「SEEDATA(シーデータ)」を取材しました。「トライブ」とは一体何者なのか?どうして商品開発や事業開発に活かせるのか?同社のアナリストである林直也氏と佐々木健眞氏より、「トライブ」の意味や役割、企業でどのように活かしていくのかを伺いました。

先進的な生活者”トライブ”とは何か?

ー まずSEEDATAがどのような会社なのかを教えてください。

SEEDATAは、博報堂DYグループの横断社内公募ベンチャー制度「AD+VENTURE」からスタートし、5年前に設立されました。「AD+VENTURE」では毎年70~80チームからアイデアが集まりますが、事業化されるのは1社か2社。これまで17の会社が生まれ、現在、存続しているのは9社+1事業部。SEEDATAはその一つです。一歩先の暮らしを体現している生活者である「トライブ」がどんな暮らしや発言をしているかを定性的に調査し、「トライブ」から導かれる変化の仮説を新事業開発や商品開発、中長期計画やブランディングに活かしていく。新しい発想をするためのツールとして「トライブ」を活用しています。

ー 「トライブ」…なかなか難しい存在に感じるのですが、もう少し意味を教えてください。

この先5年後に予想される暮らし方を「今」している生活者と考えてみてください。「トライブ」は、これから先増えていくであろう考え方や行動を先取りしています。近い将来に多くの人が直面するであろうニーズや課題にすでに直面していて、独自の哲学のもと、その課題に対して極端に特徴的な行動をとっているエクスストリームユーザーなのです。

ー いわゆる「おたく」や「マニア」と「トライブ」の違いはなんですか?

「おたく」や「マニア」は特定のジャンルに関して非常に詳しい情報や体験を持っていますが、特段、新しいライフスタイルは送っていません。ただ、ある方向に凝っているだけです。「トライブ」は「先進的な購買行動」を取っている人たち。いまの時点ではマスではありませんが、将来はマスになりうるポテンシャルがあるため、「スモールマス」とも呼ばれます。

ー どのようにしてその今は少数派の「トライブ」を見つけるのでしょうか?

SNSや知人のつてなど、さまざまなネットワークを通して見つけていきます。面白い行動を取っている人がいるという情報が入ってきたら、先方にアポを取り、インタビューを実施します。インタビューでは、なぜその行動をとっているのか、根底にある価値観を徹底的に洗い出し、エクストリームな行動が何を意味しているのか、そこにどんな社会の新しい「兆し」があるかを探っていきます。

ー アンケート(定量調査)を取るのではないのですね。

直に話を聞くことが大切です。リアルな声の中にこそ、イノベーティブなタネが潜んでいるからです。確信のための定性調査、確証のための定量調査と言われますが、何か新しいものを創り出すときには、個人の確信や発言から着想を得る方が効果的です。定量調査をやる意味が出てくるのは、ある程度、形が整ってきたとき。人がその善し悪しを判断できる段階までコンセプトが具体化されてきたとき、確証を得るために行います。

ー 「トライブ」データはトレンド情報とも違いますか?

違います。私たちの元に相談に来られるお客様にお話を聞くと、国内外のトレンドをリサーチしている会社と契約して、定期的にレポートを入手しているところがたくさんあります。トレンド情報には意味がありますが、それだけを見ても自社の技術と組みわせて商品開発に結びつけることは難しいでしょう。ですが、そこに「トライブ」の情報をインプットすれば、新しい視点を得るヒントになる可能性が高い。「トライブ」は調査対象としても扱いやすく、活かしやすいのです。

ー 「トライブ」のリサーチにもとづいた商品開発の実例を教えてください。

海外の生活者の「トライブ」の一つに「ジャパンマニア」があります。そのへんの日本人よりもよほど日本のカルチャーに詳しい生活者たちのことです。ミレニアル世代向けのホテルのコンセプトを手掛けたとき、私たちは「ジャパンマニア」からヒントを得て、マンガをテーマに据え、天井や壁にマンガの一コマが描かれているホテルを提案しました。浅草や京都、富士山や鳥居といったトラディショナルな日本ではなく、ポップなマンガに代表される日本をホテルとして具現化したわけです。

ー 海外でも「トライブ」のリサーチを手掛けているんですか?

私たちが独自に定義した「トライブ」のリストはすでに500種類以上におよんでいますが、国内だけにとどまらず、アジア、アメリカなどでも幅広く調査を行い、海外の「トライブ」も100ほどあります。そのうち、リサーチが済んでいる「トライブ」は約60種類です。

ー タイに関連する「トライブ」もありますか?

タイを始め、東南アジアの先進的な「トライブ」の中から、「プライド・スキンズ」をご紹介しましょう。東南アジアでは「白い肌=美」という価値観が一般的でしたが、最近は「生まれ持った茶色の素肌こそが美しい」という新しい美の価値観を持つ生活者が増えてきました。実際にミスコンを調べると、もともとの肌の色を大事にしようという流れが顕著になってきていて、5年ほど前にミスタイランドに選ばれた女性は、参加者の中で一番肌が黒い方でした。わざわざ肌を褐色に焼く日焼けサロンが誕生しているのもその流れの一環です。

こうした「トライブ」の出現はタイの社会においては大きな変化です。彼女たちは、お化粧をファッションの一環だと考え、服とメイクアップを同じようにとらえています。運動するとメイクの乗りが良くなるからと、運動にも積極的です。自分の生来の肌の色を生かし、メイク乗りの良い肌を作った上で化粧をして、自分らしい美しさを表現しようと行動する「トライブ」です。

ー 海外の先進的な「トライブ」をヒントに日本国内で商品を作ることもできますか?

もちろんです。例として、「エアセレブ」を挙げましょう。健康のために空気にこだわる中国の生活者のことですが、大気汚染に対する感度が非常に高く、抗大気汚染(アンチポリューション)のスキンケアを徹底しています。「エアセレブ」は、日本では皮脂や汗を取るために使われているシートを、PM2.5や埃など顔に付着している物理的なモノを取るために使用しています。空気と美容が非常に密接につながっているんですね。これは日本人に聞いては分からない視点であり、空気清浄機やエアコンを作っているメーカーには有用な情報です。

海外の「トライブ」に話を聞くと、現地市場向けの商品開発や、日本国内で売っているものを海外向けにリブランディングする、あるいは仕様や訴求の仕方を変えるといったローカライズのポイントがつかめます。

ー 「トライブ」から見えていた「兆し」が現実のものになったという例はありますか?

4年ほど前ですが、自分のスキマ時間を使って細かくアルバイトをする「マイクロワーカー」という「トライブ」をリサーチしました。その後、立教大学の学生だった小川嶺さんが働きたい時間に好きなだけ働ける、スキマバイトアプリ「Timee(タイミー)」を立ち上げ、いまではこうした働き方はかなり一般化してきました。「マイクロワーカー」が先取りした働き方がマスになったのです。

ただし、「トライブ」とはこういった社会変化が来るであろう「兆し」であり、大きなうねりにはならないことも多々あります。未来を先取りしているこういう人がいるから、彼らを狙いましょうという対象ではありません。

ー 「トライブ」自体は販売ターゲットにはならないのですね。

そのとおりです。生活者の変化や未来の仮説を立てるためのタネとなる存在です。「トライブ」から得たタネを企業が持っている技術やリソースに掛け算して、新商品や新規事業につなげていきます。「スモールマス」からヒントを得て、「大きなマス」を狙っていくアプローチですね。

ー タイに拠点を置く日系企業には、BtoBの製造業がとても多いです。一般消費財のメーカーではないので、「トライブ」から一歩先の未来を見たとしても、事業に活かすのは難しいように思うのですが…。

新しい着眼点や発想を得る、という点ではBtoBの産業でも「トライブ」は役立ちます。私たちが調査した「トライブ」の中には、自動車なども含む移動手段に関して特出した行動を見せる「トライブ」や、介護の分野、また農業の分野で先駆的な行動をとっている「トライブ」もいます。彼らの暮らしを読み取ることで、今後社会に求められる製品やサービスは変わってきます。最終消費者の行動が変われば、それを支えるBtoBの産業にも影響は出ます。

それに、複数の製造業が集まって新しい製品を作るといった新しい事業計画にも「トライブ」は役立つはずです。従来どおりの業務や系列に閉塞感を抱いている製造業は少なくありません。それぞれの会社はニッチな部品メーカーであっても、アイデアが重なれば新しい商品や見たこともないサービスが生まれる可能性はあります。

「トライブ」はアイデアのタネです。新しい企画を立てるときに一から調査をするとお金も時間もかかりますし、調査内容も自社に関連した業界やユーザーの調査に終止しがちですが、SEEDATAでは独自に多くの「トライブ」データを持っています。安く早く、お客様の業界からは見えてこなかった「兆し」を提供できる。それが、ゼロから始める調査会社やるデザイン会社とは大きく異る点です。

ー 主観的な解釈に基づく「トライブ」をもとに自社で新たな提案をしても、根拠がないと受け入れてもらえない気がしてしまいます。

商売としては、どれぐらい売れるか、売れそうなのかというデータは大切ですが、発想の段階では、もっと個人的な生活や「トライブ」を許容する組織や風土が今後、求められてくることは間違いありません。とはいえ、組織として動いていく以上、説明責任は伴いますよね。コンサルビジネスをしている私たちとしては、上層部への説得ロジックも含めてお客様と一緒に考え、企画を立案していくお手伝いをしていきます。

ー タイで初開催のセミナーは、どのような内容になりますか?

実際に弊社が扱っている「トライブ」の生の声を見て、みなさんに分析していただきます。タイ人の「トライブ」も活用しますので、普段会社のタイ人からは聞けないような彼らの深い価値観の部分も覗いていただけると思います。これまでにない方向に発想が広がっていく感覚や自社の事業に活用するためのヒントも掴んでいただけると思います。ともかく体験いただくのが一番!セミナーで得た着眼点をぜひ新しい先進的な行動に役立ててください。

三田村 蕗子の画像
執筆 三田村 蕗子

ビジネス系の雑誌や書籍、Webメディアで活動中のフリーライター。タイをもう一つの拠点として、タイはじめとするASEANの日系企業や起業家への取材も手掛ける。新しい価値を創出するヒト、店、企業の取材が得意技。コロナ禍で絶たれたタイとの接点をどう復元するか模索中。

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