SNSを舞台に縦横無尽に活躍するコンテンツクリエイター(びーむ先生)「私と日本」vol.20 - mediator

Blog SNSを舞台に縦横無尽に活躍するコンテンツクリエイター(びーむ先生)「私と日本」vol.20

2021年06月07日 (月)

私と日本
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漫画好きが高じて日本語を学び始める

「子どものころから日本の漫画が大好きでした。特に好きだったのはドラえもんです」

開口一番、びーむ先生はこう語る。YouTubeを中心に、FacebookやInstagram、TikTokなどSNSを駆使して、日本語とタイ語で情報を発信するコンテンツクリエイターだ。

日本文化に観光情報、ポップカルチャーなどを織り交ぜたびーむ先生のコンテンツの影響力は高く、YouTubeのチャンネル「Beam Sensei」の登録者数は25.4万人にのぼる。日本でもっとも知られているタイ人インフルエンサーといってもいいだろう。

彼女が日本語を勉強し始めたきっかけは、母親からの勧めだった。

「あまりに日本の漫画に熱中していたら、母が日本語を勉強してみてはと声をかけてくれたんです。小学6年生のときですね。すぐに日本語ができるタイの大学生に家庭教師に来てもらい、日本語の勉強をスタートしました」

意気揚々と週に1〜2回、日本語を学び始めた彼女だったが、中学3年生の時点で一度、くじけそうになったという。学校の宿題の量が多く、日本語の勉強と両立できそうにない。がんばって受験したのに日本語能力試験4級に落ちたこともショックだった。

もう日本語の勉強はやめてしまいたい。あきらめた方がいいのかもしれない。

一度はそう思ったびーむ先生に運命の神が微笑んだ。

「京都の二条城の400周年イベントに、タイの代表として通っている学校から選出されたんです。京都に6日間滞在しただけですが、それまで漫画やアニメでしか見たことがなかった日本をこの目で見ることができて本当に楽しかった。なんて道がきれいなんだろうと思いました(笑)。『おはようございます』と日本語で話したらとても喜ばれたことも忘れられません」

留学生として日本へ

初めて訪れた日本。この体験がくじけそうになっていたびーむ先生を思いとどまらせた。もう一度勉強をがんばってみよう。その決意通り、日本語の勉強を再開・継続。大学で日本語を専攻した彼女は4年生の時点で再び日本を訪れた。今度は短期間ではない。留学生としての滞在だ。

留学先は東京学芸大学。同じ留学生の中国人や台湾人の日本語のうまさにショックを受けつつもびーむ先生は最難関の日本語能力1級の試験に合格を果たした。

「日本人の友達がたくさんできて、いっしょに旅行にも行きました。徳島や北海道、岩手。楽しかったですね」

留学を終えて、タイに戻り大学を卒業したびーむ先生は、3ヶ月後に文部科学省の奨学金を得て、以前と同じ東京学芸大学に研究生として留学し、その後、自分の経験を後輩へと繋げるため大学院で日本語教育の研究に明け暮れた。

「大学院生はみな大人なので、あまり遊ばない(笑)。このときは勉強だけをしていた記憶があります。意外かもしれませんが、一人でいる方が好きなので、ずっと一人暮らしです。ホームシックになったこともありません」

一人でいる方が好きーー。そんなびーむ先生の言葉は意外だろうか。いや、一人でいる時間を愛おしむ彼女だからこそ、コンテンツをどのように作り込めばフォロワーたちを楽しませることができるのかを客観的に冷静に考えられるのかもしれない。

コンテンツクリエイターとしての活動をスタート

初めてコンテンツを作ったのは日本へ留学する前。日本人向けにタイ語を教える動画だった。それまでも動画を投稿することはあったが、日常やカラオケの様子をアップしただけだったという。

「ヒマだったんです(笑)。もともと日記を書くのも動画を作るのも好きだったので、100%趣味で動画を作ったら、日本人がたくさん見てくれました」

思わぬ反響がびーむ先生の運命を決めた。コンテンツクリエイターの誕生だ。その後もコンテンツを作ってはアップするとチャンネル登録者数は着実に増えていった。さらに大きく伸びるきっかけとなったのが、タイフェスティバルで撮影した動画シリーズだ。

「2013年から毎年、タイフェスティバルの会場で日本人をインタビューする動画をアップしていきました。最初は誰も私のことを知らないのでタイの伝統衣装を着ていったんですが、インタビューを断られることが多くて大変(笑)。受けてくる人を探すのに苦労しましたね。でも、だんだん知名度が上がっていって、2019年には日本人の方から『あ、びーむ先生だ』といって声をかけてもらえるようになりました」

びーむ先生のコミュニケーション力と場を盛り上げる力がいかんなく発揮されている「タイフェスティバルでーす! Thai Festival ค่ะ」は、数あるコンテンツの中でも人気のシリーズ。毎回インタビューに登場する常連の日本人もいるなど、びーむ先生のインタビューはいまやすっかりタイフェスティバルの名物だ。

通訳や司会の仕事を手掛けることもあるが、やはりびーむ先生の主戦場はSNS。Facebookには日本とタイに関する記事をあげ、TikTokでは簡単な日本語を1分未満で紹介するコンテンツを発信し、Instagramでは日常の一コマを切り抜いた写真など、SNSを使い分けている。

だが、もっとも力を入れているのはYouTubeだ。

「動画は見るのも作るのも好きなんです。何かを目にするとすぐに『コンテンツにできるかも』と考え、アイデアが浮かんだらすぐに行動に移したくなる。だからいまのところ休みはゼロです。ワーカホリックですね(笑)。動画は1日かけて撮影したら、1日かけて編集をしています。だいたい1本につき10時間は費やしているでしょうか。すべて自宅で制作しています。機器も揃えていますよ。スタビライザーも買いましたから」

Facebookでの活動も盛り上がりを見せている。2年前にびーむ先生が開設したコミュニティ「日タイ仲良し」は承認制ながらすでに会員数は3万4000人を超えた。コミュニティの交流会もタイで開催し、毎回、コミュニティの名称そのままに楽しい時間が繰り広げられている。

「これまで4回実施しました。最初はカラオケのあるレストランで、次はドンドンドンキーの中のカラオケ屋の『まねきねこ』に30人ほどが集まりました。このコミュニティは私がびーむ先生になるずっと前から『ほしい』と思っていた場。こうした場をいま作れていることを誇りに思っています」

筋金入りのインフルエンサー

しかし、昨年から続く新型コロナウイルスの感染拡大で、びーむ先生の活動に支障が出ている。それまで年に15回近く日本を訪れて動画を撮影していたが、昨年の2月以降はそれがかなわないからだ。

日本に行けない。コンテンツが作れない。

落ち込みつつも、びーむ先生は知恵をふりしぼりタイでコンテンツ制作を続けている。タイで活躍する日本人アイドルへのインタビュー、ドリアンを自分でむいてみた体験動画等など。いまも1週間に1本は動画が配信されている。

「特にお寿司に関する動画は好評ですね。タイのお寿司屋さんの食べ比べ動画はFacebookで100万回も再生されたんですよ。いまも3週間分のネタは確保しています。交流会も昨年の11月にはオンラインのアユタヤ日帰りツアーを開催しました」

どんな状況にあっても足を止めることなく、アイデアを駆使して活動するびーむ先生。インフルエンサーたる所以である。新たな計画もあるという。

「自分のブランドを作りたいですね。実はタイの衣装や生地を使って母がオリジナルの洋服を作っているんです。評判がいいので、ネットでまずは少しずつ販売していきたい。それから、オンラインでタイ語を教えることも計画中です」

有言実行のびーむ先生はこの5月から専門の学校に通い、タイ語を教えるためのコースを受けている。すでにその素地は十分にあり、知名度もあり、ファンも多い。いますぐにでもスタートできるように思えるが、びーむ先生は決してそうした安易な道を取らない。

「他の人がどうやってタイ語を教えているのか知りたいんです。だからまずはちゃんと勉強したいと思いました」

まっすぐにそう語るびーむ先生に、旺盛な活動のエネルギー源について聞いてみた。何があなたをそう駆り立てるのですか、と。

「動画を作って配信すること自体がすごく楽しいんですが、それだけではなくて、私の動画や記事を見たり読んだりしたことで、とても役に立った、勉強になったとフォロワーさんたちに言ってもらえると本当にうれしいし、楽しいんです。応援のメッセージをいただくことも多いです。それらが私を支えてくれていますね。日本語は私の人生を変えてくれました。だからこれからも日本人とタイ人のために活動を続けていきます。YouTubeがつぶれるまでは絶対にやめません!(笑)」

もし万が一、YouTubeがつぶれる日が来たとしても、びーむ先生なら別の道を探すのではないか。そう思わずにはいられない。やはり、びーむ先生は筋金入りのコンテンツクリエイターでありインフルエンサーだ。

私と日本」とは?

日本語を話し、日本の価値観を身につけたタイ人から見た、日本の姿とは何か?2つの言葉で2つの国を駆け抜けるタイ人の人生に迫る、タイでのビジネスにヒントをくれるドキュメンタリーコンテンツ。
三田村 蕗子の画像
執筆 三田村 蕗子

ビジネス系の雑誌や書籍、Webメディアで活動中のフリーライター。タイをもう一つの拠点として、タイはじめとするASEANの日系企業や起業家への取材も手掛ける。新しい価値を創出するヒト、店、企業の取材が得意技。コロナ禍で絶たれたタイとの接点をどう復元するか模索中。

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