日本ならではの仕事の流儀を活かして、子どものためのスイミングスクールを運営。(ニュウさん)「私と日本」vol.12 - mediator

Blog 日本ならではの仕事の流儀を活かして、子どものためのスイミングスクールを運営。(ニュウさん)「私と日本」vol.12

2016年02月04日 (木)

私と日本
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乳幼児向けスイミングスクール「BABY SWIMMING」に見る日本との接点 ニュウさん

ラムカムヘンの巨大なムーバーン(一軒家の集合団地)の一画に、小さな子どもたちを対象にしたちょっと変わった施設がある。

施設の名前は、BABY SWIMMING。文字通り、4歳~6才の乳幼児が泳ぐためのスイミングプールだ。といっても、バシャバシャと子どもが水遊びを楽しむための施設ではない。BABY SWIMMINGは、専任のトレーナーが手取り足取り、子どもたちにいざというときに困らないライフセービングの技術を指導していく空間だ。

きっかけは娘のためのプール作りだった

ラムカムヘンの巨大なムーバーン(一軒家の集合団地)の一画に、小さな子どもたちを対象にしたちょっと変わった施設がある。

施設の名前は、BABY SWIMMING。文字通り、4歳~6才の乳幼児が泳ぐためのスイミングプールだ。といっても、バシャバシャと子どもが水遊びを楽しむための施設ではない。BABY SWIMMINGは、専任のトレーナーが手取り足取り、子どもたちにいざというときに困らないライフセービングの技術を指導していく空間だ。

水に慣れ、水を恐れず、仮に海に落ちたときにも慌てずに自らの命を救うことができる技術を教える。そんなユニークなスイミングスクールを運営しているのが、NATWIPA NITITHAMYONGさん。通称ニュウさんである。

つい先日、出産したばかりだという二番目のお子さんを抱きながら、ニュウさんはこう話してくれた。

「BABY SWIMMINGを始めるきっかけは、長女のためにプールを作ろうというアイデアでした。『娘は水遊びが大好きなのでプールがあると楽しいかも』。単純にそう考えて、小さい子どもへの水泳の教え方について学ぼうと、いろいろな世界と関連する水泳に関連する組織と学校を探したんです。すると、オーストラリアにASCTA(Australian Swimming Coaches and Teachers Association)という有名な組織があることがわかったんです。そして、ASCTAに所属している学校の中から、ニューサウスウェールズ州にある有名な水泳学校をお手本に選びました」

早速、夫婦でオーストラリアまで飛び、見学に出向いたニュウさんは、その学校のポリシーや優れたメソッド、プログラム、コーチ人の技術に惚れ込み、最終的には研修を受けて、ASCTのコーチの資格を習得に至る。そして、こんな学校をぜひタイにも作りたいと夫婦で考えるようになったのだ。

だが、その学校の方法をそのままタイに持ち込んでも、タイ人の支持を得るのは難しい。そこで、ニュウさんのご主人はタイに馴染みやすい独自のカリキュラムを構築し、自分たちの学校をASCATにオーソライズしてもらう形で、BABY SWIMMINGの開校準備を進めていった。

どんな点をローカライズしていったのだろう。

「西洋人はスポーツ志向が強く、ハードな指導を好むようです。でも、タイ人は子どもに優しいソフトな指導を好むため、そうしたやり方は受け入れられにくい。もし、子どもたちが『今日は泳ぎたくない』と言ったらそれを尊重する形で指導を行うスタイルに変えていったんです」

こうして2014年8月に開校したのが、BABY SWIMMINGだ。オープンするや人気が殺到し、芸能人や著名人などセレブの利用も多い。土日は300人の客が訪れ、いつも満杯状態だ。ラマ2世支店も開き、他のエリアへの開校予定もある。今後も事業は着実に成長しそうだ。

「遊びにこない?」を真に受けて大失敗!?

長女のためのプール計画が、BABY SWIMMING開校へとつながっていたそのプロセスに、何かに興味を持つと真剣に取り組み、とことんモノにしようとするニュウさんの性格、気質、キャラクターが見て取れる。

極めなければ気が済まない。徹底的にやらないと物足りない。この志向は、日本語学習にもいかんなく発揮された。

「ドラえもんのようにしゃべりたい」という思いから、タマサート大学で日本語を専攻していたニュウさんは、日本語の学習を極めたいと文科省の試験を受験。晴れて日本への留学切符を手にした。

「日本はアジアで一番発展している国。日本語を学び、日本人の考え方を知れば、急速に経済成長した理由を知ることができると思いました。日本に留学したのは2000年。留学先ですか? 山口大学です」

山口県には申し訳ないが、決してメジャーな場所ではない。都会の華やかさとは対極にある場所だ。なぜニュウさんはわざわざ山口を選んだのか。その理由が面白い。

「タイ人がほとんどいない場所に行きたかった。その方が日本語の勉強になると思ったんです。実際には私以外のタイ人が2人いましたが、山口市内ではなかったのでほとんど交流がない。おかげで、日本での生活は日本語一色。日本人の友人もたくさんできて、有意義な留学生活でした」

もっとも日本の友人たちを通して、日本独自の文化にとまどったことも多いという。例えば、「今度、うちに遊びに来てね」と言われた場合、このセリフを真に受ける日本人は稀だ。誰もが社交辞令だと理解している。

しかし、異文化で育ったニュウさんは違った。

「真に受けて遊びに行き、相手にびっくりされたことがありました(笑)。あと、日本人は『これはどうですか?』と聞かれると、『考えておきます』と答えることがよくありますよね。あれも、最初は遠回しにノーと言っているとは思わず、本気に受け取っていました。本当の考えがわかるまで、日本は時間がかかります(笑)」

多くの外国人が漢字学習に手こずる中、ニュウさんは夢中になって漢字学習に励んだ。楽しく覚えることができたのは、「絵を描くのが好きだったから」。漢字は、彼女にとって絵であり、描く面白さがある図形だったのだ。

レポート発表前はいつも徹夜だった

山口大学で1年間勉強した後、いったんタイに戻り、タマサート大学を卒業したニュウさんは、大学院の留学先として大阪大学を選んだ。

大阪大学を志望した理由はシンプルそのもの。どうしても教えを請いたかった教授がいたからである。

「日本語文法を専門としている工藤眞由美先生のもとで勉強をしたいと考えました。でも、指導内容は本当に厳しかったですね。レポート発表の前はいつも朝の6時までかかりっきり。大変でしたが、達成感はありました」

大学院でニュウさんが研究した日本語文法について尋ねてみた。「自身」という言葉の使い方について徹底的にリサーチしたそうだ。

「『自身』という日本語は、いきなり使われませんよね。『私自身』『あなた自身』という形で利用される。でも、『自身の経験を生かして』という形で使われる場合もあります。どういうシーンで『自身』という言葉が使用されるのか、ほかに同じような言葉はあるのか、タイ語と比較してどうか、ということを研究しました」

このような話を聞くと、ニュウさんが勉強だけで日本での留学生活を終えたかのように思えるが、実際は研究に追われ、なかなか時間が作れないなか、三味線を習い、日本の伝統楽器の面白さも堪能したという。勉強にも三味線にも、そして友人関係においても一途に真剣に取り組んだに違いない。そんな光景が目に浮かぶ。

参考にするのは日本の仕事のやり方

大学院を卒業したニュウさんは迷わず、タイへの帰国を決めた。早く戻って、両親に親孝行したいと考えたからだ。

タイでは、日本語能力を生かして日系の企業に就職。日系の宝石会社のマネージングディレクターをつとめた後、2005年からはカシコン銀行で日系企業を顧客とする日本チームで活躍した。その後、サイアムコマーシャル銀行に移り、やはり日本語を使って、忙しく仕事をこなす日々を送る。

だが、2012年に結婚し、2013年に出産。これを機に退職し、以後、子どもの近くで仕事をしていたいという思いから、企業には勤めていない。

現在は日本語を使う機会はほとんどないニュウさん。では、もう日本との接点はまったくなくなってしまったのだろうか。

その質問への答えはNoだ。

「運営しているBABY SWIMMINGでは、水質チェックから道具や教材の管理に至るまで、日本人の仕事のやり方を踏まえています。日本で学び、日本語を使って日系企業を相手に仕事をしてきたため、日本人ならではの仕事の流儀が身についているんですね。例えば、どんな場所でもほこりのチェックをこまめに実施していますし、お客さまがいらっしゃったときとお帰りになるときには、必ず『いらっしゃいませ』と『ありがとうございました』の言葉を欠かしません。これはスタッフ全員に徹底的に指導をしています。教材も綺麗に清潔に維持していますし、子どもたちが水中で使うおもちゃも1日に3回、必ずチェンジしているんですよ」

そう話すニュウさんに案内されて、プールに足を運んでみると、確かにすべてが美しく、クリーンに保たれていた。明るい雰囲気、清潔感のある空間が維持されているのだ。その影に多くの手間が投入されていることは間違いない。

「人材育成についても、日本の会社をお手本にしています。幸い、信頼できる家族のようなマネージャーが育っているので、今度、サトーンに新しく出すスクールについても、私は工事だけを見ればいい。あとは安心して任せられます。スタッフに制服を導入したのも、日本の企業を見習ってのことなんですよ」

そう話すニュウさんの顔に、母としての顔に加えて、敏腕ビジネスウーマンの顔がのぞいた。

「今後は、BABY SWIMMINGを郊外にも広げていきたい。でも、急ぐつもりはないです。スクールを増やすには人材をまず育てないといけない。現在、トレーナーには、スポーツの学部を出た人か、水泳の大会で優秀な成績をおさめたような実績のある人か、水泳を教えている人のいずれかの条件を満たした人を採用し、しっかりと研修をしています。小さいお子さんたちにいかに水泳の技術を指導していくかは、BABY SWIMMINGの一番重要な点ですからね。ここは妥協をしません」

日本語を使用する場面はなくても、日本との接点がニュウさんの現在のビジネスを形どり、それがタイ人に支持されているとしたら、こんなにうれしいことはない。日本のビジネススタイルを取り入れたスクールの管理方法や人材育成、タイ人の志向を踏まえた独自のカリキュラム。BABY SWIMMINGの未来をこの両輪がしっかりと支えている。

乳幼児向けスイミングスクール BABY SWIMMINGの情報


「近いうちにバンコク中心付近のサトーンに支店を開業する予定ですので、日本人のお子様にもBABY SWIMMINGが誇る世界水準のスイミングスクールをぜひ体験していただきたいです」

BABY SWIMMINGの三大充実要素!
・世界水準の教育プログラム
・世界水準のプール、水質維持システム
・高度な教育を受けたトレーナー

※コースのご案内:STARFISH…4-12ヶ月の乳幼児|NEMO…1-2歳児|DOLPHIN…2-3歳児|SHARK…3-6歳児

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私と日本」とは?

日本語を話し、日本の価値観を身につけたタイ人から見た、日本の姿とは何か?2つの言葉で2つの国を駆け抜けるタイ人の人生に迫る、タイでのビジネスにヒントをくれるドキュメンタリーコンテンツ。
三田村 蕗子の画像
執筆 三田村 蕗子

ビジネス系の雑誌や書籍、Webメディアで活動中のフリーライター。タイをもう一つの拠点として、タイはじめとするASEANの日系企業や起業家への取材も手掛ける。新しい価値を創出するヒト、店、企業の取材が得意技。コロナ禍で絶たれたタイとの接点をどう復元するか模索中。

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