セミナー開催レポート|タイ駐在員のための明日から使える労務管理 - mediator

Blog セミナー開催レポート|タイ駐在員のための明日から使える労務管理

2019年08月05日 (月)

講座・セミナー開催記録
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人手の少ない海外拠点では、初めて労務管理を任されたり、異文化での従業員の管理に難しさを覚えたりする駐在員が少なくありません。今回の講座では、タイにおける労務の基本から裁判にまで発展した様々な問題を取り上げながら、タイにおける労務管理のリスクと対策について、BM Accounting Co., Ltd.の長澤直毅氏より解説いただきました。

最低賃金…だけじゃ済まないタイの給与計算

年々上昇を続けるタイの賃金水準(人件費)は、現地法人運営で頭を抱える代表的な課題の一つです。日系企業が多く進出しているバンコクやサムットプラカーンの日額最低賃金は325バーツ、チョンブリーやラヨーンでは330バーツとなっていますが、先般行われた選挙においては、与党が最低賃金をさらに現行から100バーツ引き上げる公約を掲げ、今後の動向が注視されています。

よく耳にする「最低賃金」は日給を指しますが、月給に換算する際は「×30(30日分)」で換算されるのがタイの特徴です。仮に実際の勤務日数が月20日間でも、月給では最低賃金の30日分を支給する計算となります。この「30」という数字は、時間外手当や割り増し賃金等を計算する際にも用います。

タイでは、時間外や休日の労働手当、年次有給休暇の買取り、解雇/休業/出産休暇の補償金などの計算において、「通常の賃金」を基準とします。この「通常の賃金」には、基本給の他、食費手当や通勤手当、語学手当など、毎月一定の金額を固定的に支払う手当が含まれます。ただし、住宅手当など、福利厚生目的で支給するものであれば、「通常の賃金」に含む必要はありません。また、賞与については、支給の有無、支給金額が会社に委ねられているため、計算基準も会社が決めることができます。

タイにおける「不利益変更」の合意の難しさ

しかし、就業規則に定めのある賞与の算出基準を改定するなどで、従業員に不利益が生じる場合には、会社の一存で変更することはできません。賞与の改定のみならず、給与の減額や、勤務管理についてなどの就業規則も同様です。労働者にとって不利益と見なされる変更をする場合には、原則として、従業員から個別に同意を取り付ける必要があります。2/3以上の労働者を代表する労働組合や代表者が存在する場合には、労働組合や代表者と合意した内容が全労働者に適用されます。しかしながら、労働者の不利益になる改定への合意は容易ではなく、初めの制度設計が非常に重要になってきます。

時間外勤務についても、従業員の同意を得なければならないため注意が必要です。タイでは、労働者保護法24条1項に基づき、会社は社員の同意を得た場合を除き、時間外勤務をさせてならないことになっています。時間外勤務に就くか否かは各社員が決定権を持ち、時間外勤務をしない場合でも違反にはなりません。社員に時間外勤務をさせる場合には、同意を得るか、本人が自発的に行うようにする必要があります。

労働管理に関する感度を上げて、安定した企業運営に

日本に比べて発生頻度の高い「解雇」の問題については、次の3段階に区分することができます。

一つ目は、労働者保護法119条1項に該当する「懲戒解雇」。この場合は、解雇補償金、事前通告補償金の支払いは不要です。二つ目は、民商法典583条に該当する「正当な解雇」。この場合には、事前通告補償金の支払い不要ですが、解雇補償金が必要となります。三つ目は、どちらにも該当しない「不当解雇」。この場合は、解雇補償金も事前通告補償金も支払いが必要であり、解雇状況により損害賠償を追加で支払うケースも見られます。ただし、試用期間中であれば、給与支払い期間以上前までに通知することで解雇補償金の支払いは不要となります。労働者側に対する保護が手厚いタイですが、試用期間中であれば解雇の判断もしやすくなります。企業側は、試用期間中に該当者をきちっと評価し、雇用継続の判断をする必要があるでしょう。

法律と密接に関係した労務管理においては法解釈によるところがあり、必ずしも正解があるとは言い切れません。しかし、現行の法律や制度の理解を深めるとともに、過去の判例なども参考にすることで、無用なトラブルを回避することができます。今後も、一部企業を対象としたプロビデントファンドの強制加入化や社会保険料の上限の引き上げなど、労働関連法に関係する様々な改定が予想されます。「労務管理」に対する感度を上げることは、安定した企業運営の一つのカギになるでしょう。

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執筆 mediator

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