地方の面白さをタイ人へ。日本観光の情報メディア「Tiewyeepoon」(バードさん)「私と日本」vol.19 - mediator

Blog 地方の面白さをタイ人へ。日本観光の情報メディア「Tiewyeepoon」(バードさん)「私と日本」vol.19

2021年06月02日 (水)

私と日本
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タイの訪日観光ブームに火が点いて約10年。2013年のビザ緩和により、その勢いは加速し、2019年には年間131万人を達成。行き先は東京・大阪・北海道といったメジャーな観光地から、日本人でさえ足を運ぶ機会が少ない地方にまで拡大している。その立役者の一人が、自身の情報メディア「Tiewyeepoon(ティアオ・イープン、タイ語で「日本観光」の意味)」で日本の観光情報を発信するバードさん。JNTO発の「旅行コンテンツ賞(2017)」を獲得するなど、その実績はお墨付き。WEBサイトや著書を通し、従来からある日本観光のイメージに新たな色を加えている。

日本アニメが大好きだった幼少期「テレビの世界が現実に…!」

タイ人が日本を好きになるきっかけとして、日本アニメやコミックを挙げる人は少なくない。バードさんもそうだった。

「初めて見たのは小学校低学年の頃。『ドラゴンボール』や『セーラームーン』から始まり、日本アニメが大好きになりました。そして、いつの日からか日本へ行ってみたいと憧れを抱くようになったんです」 アニメに加えて、興味を惹かれたのは日本語だった。タイ人のバイブルとも言われる参考書『みんなの日本語』を手に勉強をスタート。知識が少しずつ増えるにつれ、将来は日本語を使った仕事に就きたいと思うようになったのは至極自然な流れだろう。東京への語学留学を決意。2006年、憧れだった場所に初めて降り立った。

「これが本物の日本か…!」アニメやドラマで何度も目にしてきた景色を前に、バードさんは「一つの夢が叶った」と思うほど感動したと振り返る。留学期間は1年間。もともと旅行が好きだったバードさんは、語学学校の合間で東京や大阪、京都など主要な観光地を駆け回った。その後、日本各地のスモールタウンに夢中になるとも知らずに…。

JNTO勤務をきっかけに「Tiewyeepoon」を開設

留学が終わり、タイに帰国したバードさんは自らの日本語スキルを活かし、「JNTO(日本政府観光局)」バンコク事務所に就職。日本観光に興味があるタイ人からの質問や問い合わせの多さに当初は驚いたという。

「当時は日本旅行に特化した情報メディアがほぼなく、あったとしても個人のブログで紹介されている東京や大阪など主要なエリアだけでした。だからこそ問い合わせも多かったのだと思うのですが、地方へのアクセス方法や現地での過ごし方といった質問が相次いだことで、地方に特化した情報が不足していると気づかされました。ニーズはあるのに発信者がいなかったんです。それなら自分が応えようと」

そうして2013年11月、FacebookとWEBサイト上で Tiewyeepoon は産声を上げた。 「発信するだけじゃなく、個性豊かな日本各地とタイ人を繋げる場所にしたい」。思い描く形は決まっていた。

点を線へ。街と街を繋ぐ情報にこだわり

Tiewyeepoon が評価を集めるポイントの一つが、現地への行き方を細かく盛り込んだ情報量の多さ。日本人でさえ、地方を旅行する場合には事前に車でのアクセスや電車の乗り継ぎを調べたり、地元の人に尋ねたりと都市部よりも移動のハードルはいささか高い。それは、タイ語しか話せないタイ人ならなおのこと。バードさんはJNTOでのさまざまな問い合わせを経て、アクセスや各スポットの移動時間、列車やバスなどローカル線の乗り継ぎ方法など、それぞれの点を線で繋げることにこだわった。

同時に、ただのスポット紹介にしたくないとその場所の成り立ちや歴史、物語も織り込む。フォトジェニックな写真を撮りに行くだけでなく、その場所を“知る”ことで旅行の楽しさが何倍にも膨らむことを、バードさんは自らの体験を通して実感していたからだ。そんな想いをサイト上にさりげなく散りばめる。

「日本語が分からないからと日本旅行、地方旅行を諦めてほしくないですし、僕の記事があれば現地に行ける内容を常に意識しています。そして、日本旅行へ行きたいと思った時に 、みんなが Tiwyeepoonを思い浮かべるような存在になりたいです」

「Japan Tourism Award in Thailand」受賞が自信に

2017年には日本各地を巡ってきた自らの体験を活かし、42の市町村を紹介したガイドブック『อินะกะเจแปน เที่ยวบ้านนอกญี่ปุ่น(日本の田舎)』を上梓。同年、タイにおける訪日旅行促進への功績が評価され、 Tiewyeepoon はJNTOが毎年開催している「Japan Tourism Award in Thailand 2017」のコンテンツ賞を受賞した。名実共に、その存在が認められた瞬間だった。

「この年は書籍という形で、オンラインユーザーではない層に知ってもらうことができ、また日本観光の情報メディアとして公に認めていただき、自信になりました」

身一つ、手弁当から始まった Tiewyeepoonだが、開設から2年ほど経った頃に紹介した北海道でのイカ釣りの記事が大きな話題になり、FacebookのフォロワーやWEBサイトのPV数が急増。新たなスタッフや日本に住むタイ人ライターが運営チームに加わり、日本の自治体との連携もスタート。今ではFacebookのフォロワー数は26万人を超え、人気メディアへと成長を遂げている。

東北の街で見た、日本のリアル

しかしながら、バードさんはどのようにして地方の魅力に気づいたのだろうか? そう問いかけると、話は10年前に遡るという。

「2011年に東日本大震災が起こりましたよね。その後、タイ人の心には日本を支援したいと思う一方で、日本旅行に対して大小さまざまな不安が生じていたんです。けれどそれは、不確かな情報に惑わされた人たちの偏見でしかなかった。それが1年後も続いていたため、そのイメージを払拭したくて日本へ向かいました」

向かった先は宮城県。都市部や沿岸部、山間部などさまざまなルートを辿りながら、岩手県までレンタカーを走らせた。日本を発つ頃には、素朴でありながら自然の力強さや美しさを感じられる東北に魅了されていたという。

この旅行を機に、バードさんは未知なる地方へと旅立つようになった。北は北海道・稚内や青森県・十和田、南は宮崎県・高千穂や佐賀県・唐津など日本各地に根づく独自の文化、食、暮らし、自然、人に触れていったバードさんは、ひと言に収まらない日本観光の多様性を肌で感じていった。その軌跡の一つひとつが、 Tiewyeepoon と重なっている。

「コロナ後の旅行先は…日本全国です!」

新型コロナウイルス(以下コロナ)の感染拡大から早1年半。日本旅行が叶わない現状に嘆くタイ人の声が飛び交う。バードさん自身、今ではビジネとしての役割も担っている Tiewyeepoon の情報更新がままならない状況に頭を悩ませることも。

「不安はありますが、約8年間 Tiewyeepoon を続けて来れた理由は、日本に行きたいタイ人がいたからです。そのニーズは、一時的なコロナの波に飲まれて終わることは決してなく、これからも続いていくと信じています。もちろんただ傍観しているわけではありません。日本に行けないからこそ、現地のリアルな状況を伝える動画コンテンツを準備中です。どんな状況でも常に、求められるものに応えていきたいです」

自らの体験を肥やしに、日本観光の魅力をタイ人に届け続けるバードさん。「日本は何度行っても面白い」 ———。そのメッセージはきっと、アフターコロナの起爆剤になってくれるはずだ。

>Tiewyeepoon(ティアオ・イープン)
http://www.tiewyeepoon.com/
https://www.facebook.com/tiewyeepoon/

私と日本」とは?

日本語を話し、日本の価値観を身につけたタイ人から見た、日本の姿とは何か?2つの言葉で2つの国を駆け抜けるタイ人の人生に迫る、タイでのビジネスにヒントをくれるドキュメンタリーコンテンツ。
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執筆 山形 美郷

日本での編集業務を経て、タイのビジネス系・ライフスタイル系フリーペーパーなどで執筆。“タイの暮らし”をテーマに、現地に生きる人々のインタビューを通して現地のリアルを発信。ガイドブックや日本のカルチャー雑誌などでのライター・コーディネーター業務も請け負う。

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