前篇では、メディエーターの現状や在宅勤務を通して考えたこと、問題点についてお話しました。この後編では、もっとシビアでリアルで切実な問題を取り上げたいと思います。
このままでは資金がショートしてしまう
COVID-19の感染が拡大し、タイの経済がストップし始めたとき、僕は「資金繰りをどうするか」という問題に頭を抱えました。
従業員にはこれまで通り、ちゃんとお給料を払いたい。オフィスもそのままにしておきたい。固定費は下げたくない。しかし、このままでは秋口に資金がショートするのは明らかでした。
これはメディエーターだけではないはずです。タイでも日本でも、いま多くの企業が資金問題にぶつかり、悲鳴をあげ、もがいています。
メディエーターはイベント系の仕事を数多く手掛けています。春に予定していたイベントはすべて中止もしくは延期になりました。秋に予定しているイベントが仮に開催されたとしても、入金されるのは10月以降。これでは会社が立ち行かなくなります。
設立以来の最大の危機を乗り越えるために僕と会社の中心メンバーは奔走しました。主なクライアントに連絡を取り、メディエーターの現状を率直に伝えました。ここで格好をつけても仕方がありません。このままでは資金がショートしそうなこと、危機的状況にあることを伝え、仕事を獲得するための働きかけを積極的に行ったのです。
新しい展示会のパターンを構築したい
正直に言って、これまでのメディエーターは受託の仕事が多く、待ちの姿勢が強かったと思います。しかし、待っているだけではもうつぶれてしまいます。
自分たちで活路を切り開かない限り、メディエーターに未来はない。COVID-19を、待ちの姿勢が強かったメディエーターの体質を変えるきっかけにしよう。仕事が降ってくるのを待つだけの態勢を脱し、「こんな仕事をしませんか」「こんな企画はどうですか」と提案できる企業、面白い企画が出てくると期待される企業に変えていこう。そう決めました。
危機感にかられ、僕たちが持てるスキルやノウハウ、創造力や提案力を駆使して企画をひねり出しました。幸い、いくつかの案件が決まり、実現に向けて動き始めています。
具体的にはまだお話できませんが、いま着手しているのは新しい展示会パターンの構築です。オンラインでできることを提案すべく、個別にオンラインマッチングを図っていきたい。現場に即した情報を集め、オンラインでのマッチングがスムーズに進むようなアイデアを実現させていきます。ビジネスマッチングの仕掛け人として、常に最前線を走ってきたメディエーターだからこそ可能な取り組みです。
たくさんの企業が一同に集まる展示会は一覧性のメリットが非常に高いので、完全にオンライン化するとは思えません。しかし、COVID-19以降の商談会は、オンラインのまま進むことも考えられます。
そこで必要なのは入念な準備です。通訳も単に言葉を訳すだけではなく、ファシリテーターの機能も求められていくはずです。COVID-19は個人の能力や調査や情報収集能力を容赦なく浮き彫りにしていく。僕たちはこの事態を契機にこれからの商談会のありかたを模索し、これまでにない斬新な展示会をどこよりも早く形作っていくつもりです。
僕たちが現在、企画し、推し進めているプロジェクトは、誰に言われるまでもなく、自主的にクライアントに提案し、受注を果たしたものです。受託仕事だけに甘んじず、主体的に動き企画し提案できる企業はこれまでのメディエーターの長きにわたる目標でしたが、危機に直面したことで、そこに大きく踏み出せたように感じています。
そう、メディエーターは一皮も二皮もむけました(笑)。
もちろん、提案した以上は必ず成功させなければなりません。日本とタイとの関係やパイプを弱体化させてはいけないのです。それだけは避けなければならない。危機的状況にあるからこそ強く、太くしていこう。僕はいま、メディエーターの使命をこれまで以上に痛感しています。
外的環境が進化を促す
オンライン化は人の能力を完膚なきまでに明らかにします。僕たちはそうした時代に備えてスキルを磨き、経験を積み、実績をあげていかなくてはなりません。
シビアであることは確かです。厳しい時代に突入することは間違いないでしょう。
でも、僕はこの機会を前向きにとらえたい。メディエーターはCOVID-19を機に、一歩踏み出すことができました。早く変わらなければならない、受託体質から抜け出さなければならないと思いつつも、前の前の仕事に追われて変われなかった企業体質が変わりました。外的環境が進化を促したのです。
もちろん、進化といっても、まだほんの少し。それでも僕たちにとっては「大きな一歩」です。もう逆戻りはしません。前に進むだけです。
僕のミッションは、日本とタイをつなぐプラットフォームを作ること。日本人が日本とタイを行ったり来たりできなくなったいま、日本国の代わりに日本国や日本企業のために動けることの価値をこんなにも実感したことはありません。本当に、日本の役に立っていると感じています。
僕がフリーランスの通訳やコーディネーターだったら、こんな風には動けなかった。会社を作っていて本当によかった!
COVID-19はそう簡単には収束しないと思います。COVID-19とともに生きていく。そうした覚悟が求められていくのかもしれません。
でも、とんでもなくシリアスな事態であってもメディエーターは進化することができたのです。もう、これまでのメディエーターではありません。メディエーター2.0になりつつあります。
この一歩を大きなうねりにしていきたい。そして、日本とタイの関係をCOVID-19の前よりもさらに強固にしていきたい。それがいまの僕の偽らざる心情です。
脱皮して、新しい形態に進みつつあるメディエーターのこれからを温かく、そして厳しく(笑)、見守っていただきたいと思います。