タイ人における日本の存在とは? 〜 タイ進出外国企業No.1「経済の貢献者」から、プライベートで楽しむ観光地No.1「楽園の日本」へ - mediator

Blog タイ人における日本の存在とは? 〜 タイ進出外国企業No.1「経済の貢献者」から、プライベートで楽しむ観光地No.1「楽園の日本」へ

2022年03月03日 (木)

販路開拓・進出
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※本記事は、ArayZ(2021年12月号)の特集「アフターコロナのシナリオを占うタイ近未来大予想​​」の「変わる日タイ関係 – タイ人における日本の存在とは​​」に一部抜粋して掲載されました。

「近い将来、タイの経済成長を支える外国企業は日本企業から中国企業に変わっていくだろう・・・
街中を走る自動車の4〜5割は中国メーカーに変わり、EVを支えるインフラをタイ大手が展開。バッテリー製造大手はタイと中国の合弁企業。日本の大手企業の製造拠点はベトナムなどに移管し、タイの中小企業は仕事がなくなり、撤退が続く。残っている企業は中国やタイ大手に買収され、日本企業全体の数も大きく減少。日本人駐在員の数が減り、日本企業に勤めていたタイ人は中国メーカーに転職。中国の本格的な進出でタイ経済が活発になり、タイ人にとっての日本は、年に一度の海外旅行で遊びに行く場所となる。」

こんにちは、mediator 代表のガンタトーンです。上記は、僕が予測するタイの近未来シナリオです。少し大袈裟に思えるかもしれませんが、タイ人における日本の存在は着実に変化しています。

「自分の国の強みを一つだけ答えてください」と聞かれたら皆さんは何と答えますか。中国が世界経済の中心となったら、世界地図上の日本とタイのポジショニングはどうなるでしょうか。

『過去2000年間の世界経済の主要国の変遷』 引用元:Visual Capitalist

※中国が世界経済で弱体化したのは、過去2000年間のうち、わずか100年ほど。歴史から見ると中国が世界経済の覇者となることはなんら不思議ではないことが、上記のチャートからも見て取れます。

日本語で日タイ関係に関する情報収集をしていると「135年間の友好関係」「外国企業の投資国No.1」「日本企業の集積地」「増え続ける日本食の店舗」「日本産食材・食品に対する需要の増加」など耳触りのよいことばかりを目にします。

日本人が感じている「タイにおける日本」と、タイ人が認識している「日本」にはギャップがあると疑問に思ったことはないでしょうか。今回は、過去の歴史から現在までのベクトルを鑑みながら、タイやタイ人にとっての「日本」という存在が今後どう変化していくのかについて、日タイの両国に深く関わってきたいちタイ人として考察していきたいと思います。

今の日タイ関係は40年前に基礎 〜 タイの経済成長に最も貢献した国「日本」

今の日タイ関係はあくまでも約40年前に作られた「遺産」です。タイが40年前に始めた「東部臨海開発(Eastern Seaboard Development)」は、タイ経済の堅調な発展に向けた、はじめての先進的かつ戦略的な取り組みでした。開発計画策定にあたり、「セクター横断的」かつ「プログラム化」したアプローチを導入したことが大きく成功しました。

1985​​年のプラザ合意の影響を受けて、円高を嫌った日本企業による本格的な海外進出とタイ政府の東部臨海開発(Eastern Seaboard Development)との方向性が合致し、結果、タイは東南アジア最大の日系企業の集積地となったのです。

また、日本政府の積極的な支援により、当時経済的にまだ貧困だったタイでは「日本は経済発展に大きく貢献してくれた」印象が強く、経済や産業における日本のステータスは高く、日本企業に勤めることは「安定した収入を得る」ことができる人気の就職先でした。その後、日本の製造業に勤めたタイ人たちが独立し、日本企業からの部品加工の下請けとなり、現在の広い裾野産業が形成されました。当時支援を受けた現在の60〜70代の政府の元官僚や従業員たちは今も日本への感謝の気持ちを忘れていません。さらに日本に留学生させてもらった当時のタイ人たちも日本との深い縁を感じ、強い絆で結ばれています。

島国 NIPPON in タイランド

かつては日本企業がタイに進出するためには「タイ側のパートナー」が必須でした。しかし、BOIの施策で100%独資が可能になると、日本企業はタイ人株主がいることが経営上の障害だと感じ、この制度をフル活用するようになりました。実は、これには日本企業が気付いていない潜在的なリスクが潜んでいたのです。本来なら分散されるはずだったリスクを一人で100%抱えてしまい、身の回りのタイ人は「従業員クラス」のみとなり、​​「経営層」のタイ人とのコネクションがなくなってしまいました。それにより経営に必要な情報を入手するルートが失われ、海外にいながらも日本企業同士の付き合いばかりで孤立するようになってしまいました。

日本企業のタイ進出にも変化がありました。かつては「仕事が既に用意されている」状態の進出でしたが、2010年以降に進出した日本企業の撤退が多かった理由の一つは、「タイでの仕事はまだないけれど、今のうちに海外に拠点を作っておかないといけない」という危機感が先行したものでした。結果、そうした企業は日本企業にしか営業に行けず、競争が激しくなり、仕事が取れない状態が続き、余儀なく撤退となりました。さらに追い討ちをかけたのが、新型コロナウイルスのパンデミック。最近ようやく収束の兆しが見えてきましたが、新型コロナウイルスにより社会全体のあり方やニーズは驚くほど変化を見せたのは皆さんも知るところだと思います。

過去30~40年、日本企業はタイで一生懸命ものづくりに没頭し、タイ企業が絶対できないことで強みを発揮していました。​​しかし、日本企業同士の付き合いのみで、タイの社会とコネクションを持たず孤立した日本企業は、このままだと持続的な発展は望めず、残念ながら近い将来淘汰されていくのではないかと僕は危機感を感じています。

押し寄せる中国経済の波

世界的な潮流として、中国経済の勢いはもはや食い止めることは不可能です。タイの経済成長を支える外国企業は、かつての日本企業からこの先中国企業に変わっていくでしょう。中国製品の安かろう悪かろうはひと昔前の話。中国の技術力の進歩は目覚ましく、家電業界で起きたことと同じく、自動車や他の産業も中華圏の企業に買収される将来はそう遠くないと感じています。

今後10年ほどで、タイの街中を走る自動車の4〜5割は中国メーカーに変わり、電気自動車(EV)を支えるインフラはタイ大手が展開、バッテリー製造はタイと中国の合弁企業が担っていくことが予想されます。

このまま日本の大手企業の海外拠点の目的が「安定して安くモノを作る」から変化することなく、より安く作るために製造拠点をベトナムなどに移管すると、在タイの中小製造業企業の仕事はなくなり、撤退が続くでしょう。そして、残った企業も中国やタイ大手に買収され、日本企業全体の数が大きく減少。そうなると必然的に日本人駐在員の数も減り、在タイ日本人をターゲットにしていた飲食店や小売店も縮小していくでしょう。

中国の本格的なタイ進出でそれまで日系企業に勤めていたタイ人は中華系企業へと転職。タイ人にとっての「日本」は、消費行動においては数あるブランドの一つ、もしくは年に一度の海外旅行に行く場所の一つという位置付けが顕著となるかもしれません。

では、タイにおける日本企業の未来はないのでしょうか。僕自身、今後日本とタイの経済協力や投資のあり方は変わっていくと考えています。昔は、日本企業がタイに進出するきっかけは「安定して安く製品を作る」ことでしたが、物価や人件費の高騰により、もうタイはその選択肢ではなくなってきています。

島国 NIPPON in タイランドを抜け出すためのパラダイムシフト

日本企業がタイおよび東南アジアを製造拠点からレベルアップして、本気で市場に入っていくと考えるなら、これからの進出のきっかけは「タイ企業との協業」が鍵を握っていると思います。

タイの製造業以外の業界を見てみると、経済成長に伴いタイ企業もどんどん成長し、昨今では東南アジアを代表するグローバル企業が次々と誕生しています。タイでは市場がもうでき上がってしまっているので、今さら日本企業が自分で新たな市場を開拓することは非常に厳しいと言えます。

今後、日本企業がタイや東南アジアで事業を拡大していきたいのなら、異業種の「タイ企業」と「パートナーシップ」を組み、お互いの強みを活かし、共に事業を大きくしていくことが必須になります。ここ数年、タイの大手企業との合弁会社設立や業務提携をしたというニュースをよく目にするようになったと思いますが、特にコロナ禍でこの流れは加速し、すでに最近のトレンドとなっています。

これまでの数十年間「官主導」で行われてきた経済成長戦略から今後は企業同士が対話するための「民主導」に変わっていく・・・今まさにタイの市場はその過渡期にあります。

タイ企業が日本企業に求める真のニーズとは

皆さんは、タイの民間企業が日本企業に何を期待しているかお気づきでしょうか。

それは、タイ政府の政策にあるような「日本(外国企業)からの投資」でも質の高い製品でもありません。実は、タイを拠点にグローバルに事業を拡大させていく「協業パートナー」を求めているのです。タイ企業は研究開発が得意でないことは自覚しており、常に世界中から技術力のある企業を探しています。中でもタイの資源を最大限に活用した農業・食品・医薬品技術、SDGsをテーマとした脱炭素や低炭素などの環境技術はタイの各社がこぞって投資している分野です。

日本企業には、これらの研究開発・技術力はもちろん、これからタイも迎えるであろう成熟市場や高齢化社会で生き抜くための日本の豊富な「経験値」にも期待をしています。そのためには、言語の違いや商習慣の違いからくる壁を乗り越えて、日本企業とタイ企業の民間同士がどんどん会話の機会を作っていかないとこれから先は変革を起こすことは難しいでしょう。

日本人が気付いていない日本の資産「ソフトパワー」

日本企業のタイ進出により、かつてタイで家電や自動車と言えば「日本製」でした。今の40〜50代のタイ人はまだそのイメージが強く根付いています。しかし、近年は中国製や韓国製なども増え、日本製は選択肢の一つに過ぎなくなりました。

日本人は自国をものづくりの国だと強く認識していて、日本の「ソフトパワー」の活用をあまり意識していなかったのではないでしょうか。消費者ニーズが多様化してきた今の時代こそ、その「ソフトパワー」を発揮する時です。

それは、行事や作法、和食などの「伝統文化」と漫画やアニメ、ゲームなどを代表とする「近代文化」。実は、タイの消費者はこれら両方の日本文化を尊重し、好んでいます。今後の日本はこのソフトパワーの資産をもっと活かしていくべきだと思います。

>>>グローバルマーケットを視野にソフトパワーを活かした経済戦略についての記事はこちら

ショールームの役割を発揮する「日本国」

日本のソフトパワーをすべて集約しているのが、ショールームとしての役割を担う「日本国」そのもの。

約1,000万人のタイの中上流層は、1年の節目に頑張った自分へのご褒美として、気分転換に海外旅行を好みます。日本は渡航先No.1。何回行っても飽きません。日本に行くとタイにない目新しいモノを発見し、タイに持ち帰りたくなります。つまり、タイ人が日本に行けば行くほど、日本の商品が売れる。

ファンにはリピートしてもらい、新たなファンを開拓するためにはソフトパワーを駆使する。このコンビネーションを戦略的に展開していくことで、タイ人の一般消費者にとっての「日本」がもっと身近になり、本当の意味でタイに「日本」が根付いていくのではないかと思います。

タイ人が好きな国「日本」。その日本と一緒にパートナーシップを組み、東南アジア・中国などの市場に一緒に攻めて行く、10~20年先のそんな未来に少しでも近づけるよう、僕は2021年6月からTJRIプロジェクトを立ち上げました。「日本と手を組んでイノベーションを起こしたい」、そう望んでいるタイ人が多くいることを僕はタイ人を代表して日本人の皆さんに伝えたい。

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執筆 mediator

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